USMLE step 2CS 対策 (2013年2月13日更新)

概要

USMLE step 2CSは、Clinical Skillsつまり臨床の技術を評価する試験です。具体的には、医療を行うにあたり、必要最低限の知識、マナー、診察技術があるか否かをチェックするわけです。USでは医学生が全員受験するわけですから、ものすごく専門領域に踏み込んだ内容はありません。しかし、範囲が幅広いので、よく勉強しておく必要があります。

試験の形式は、12名の模擬患者さん(SP)を各15分で問診・診察・説明し、直後の10分でカルテを書く。1名はリサーチ用で、実際の採点には使われませんが、どの症例かは分かりません。SPは健康な人たちで症状を演技するわけですが、痛みの演技など実に真に迫っています。試験の際には、実際に患者さんを診察する感覚で接したらよいと思います。

評価方法と対策

評価は、3つの柱があります。医学的知識を問うICE (integrated clinical encounter)、医師としてのマナー等を問うCIS (communication/interpersonal skills)、英語力を問うSEP (spoken English proficiency)です。ネットで調べたところによれば、CISとSEPは90数%の高い点数が要求されます。これは、医師としての高いコミュニケーション能力が重要だからでしょう。ICEは、5割程度でOKという噂です。USの医学生がclerkshipで鍛えられていたとしても、所詮は医学生だからでしょうか?

USの医学生は、CISとSEPで落ちることはまずありません。情報集めが足らずにICEで落ちるのだそうです。逆にIMGは、CISで落ちる可能性が一番高い。次いでSEP、最後にICEらしいです(First Aidによる)。USの医学生は95%以上受かりますが、IMGは8割強の合格率。しかし、昨年にCISとSEPの合格ラインが引き上げられたので、IMGの合格率は、おそらく75%程度くらいか(ネットでは8%の低下が予測されるとあった)。

考えてみるに、CISは医師としてのマナーを問うものですから、きちんと対策さえ立てておけば、よほどの大ポカをしなければ大丈夫なのかなぁと思います。しかし、CISのチェック項目を知らなければ、必要なポイントを取れずに落としてしまいます。これには、First Aidが非常に重要で、徹底的に練習しておくべきだと感じました。CISにeye contactを保つという項目がありますが、メモを取るときは、どうしても目を離す必要があります。役立つかどうかは分かりませんが、僕は最初に「I hope you don't mind my taking some notes while asking questions」と言って許可を求めました。全員「I don't mind」とか「No」とか言ってくれました。

SEPについては、英語力の基本を高めるにつきます。問診は決まり文句ばかりなので、First Aidにある問診の文章をひたすら口に出して練習する。ただ、First Aidの文章でも、ちょっと凝った言い回しが見受けられ、もっと単純な文章でも良いと思います。たとえば、「What do you think might have brought this on?」よりも「What do you think caused this?」というように。気に入った文章を見つけ、繰り返し練習するわけです。もう1つは、発音しやすい表現を使うこと。たとえば、「Has there been any change in your weight?」よりも「Did you notice any change in your weight?」や「Have you lost or gained weight lately?」の方が、僕は楽でした。そして、本番では、なるべくゆっくりはっきりと発音するようにするのが大切だと思います。焦って早口になると、SPに「I don't understand what you said」なんて言われ、言い直す羽目になるわけですから。

聞き取りに関しては、ラジオやCDなど、とにかく練習が必要です。ただ、英会話番組などのきれいな英語を聞くだけではリスニング力は伸びません。もちろん、これらがかなり聞き取れないとつらいのは事実ですが。きれいな英語でも、CNN(アメリカ英語ですから)などの速めの英語、ドラマや映画などの多少くだけた英語にも慣れておく必要があります。また、実際の問診の際には、相手の言ったことを繰り返したり、少し言い換えたりして口に出す。たとえば、SPが「It's been hurting for 2 days」なんて言ったら、「2 days」とか「So, your pain started 2 days ago?」とか。間違えて聞き取っていれば、SPが訂正してくれますし、これは「あなたの言ったことをちゃんと聞いていますよ」というこちらからのサインでもあるのです。このあたりもCISにかかわってくるのかも知れません。

必要な英語力の目安ですが、ちょっとよく分かりません。というのも、SPの話す英語は単純なものが多いからです。私は、それぞれのSPで1-3回程度聞き直しをしましたが、私のリスニング力は、1年前のカナダ渡航直前で、IELTSで9点満点中7点(上級の一番下)でした。ちなみに7-8年前のTOEICでは、990点満点中910点(リスニング450点くらいだったか)でした。話すのは、私はIELTSでやはり7点でしたが、これはもう少し低くても、決まり文句ですから練習次第で何とかなると思います。ただし、発音はしっかり練習するべきだと思います。また、薬の名前はよく知っておく必要があります。特に、OTC薬(処方箋不要の薬)は、ブランド名でSPが話すことがあるので、知識が必要です(Tylenol、Advil、Tumsなど)。知らない名前が出てきたら、綴りを尋ねるのはOKです。

ICEについては、やはり勉強しかないと思います。何を尋ねるかは、鑑別診断に何を考えるかにかかってきます。診察法は、Bates'などを読んでUS式の診察法をしっかり覚えましょう(僕は、だいぶ怪しいですが)。ビデオもついていると思うので、しっかりイメージに焼付け、あとは実際に練習あるのみです。

時間との戦い

この試験の最大のポイントは、時間のマネージメントです。教科書には、問診に7-8分、診察に5分、説明等に2-3分とあります。正直、これはかなり厳しいタイミングです。

問診に7-8分と言っても、入室して挨拶をしている間に1分は軽く過ぎてしまいます。というのも、入室前に質問内容の準備をあらかじめするわけですから、そこで40秒くらいはかかってしまう。患者さんに挨拶してdrapeをかけるまでに1分半はいくでしょう。後で簡単に病歴の要約をしますが、これに30秒はかかります。英語につまると1分くらいかかるかも。これらを問診の部分に含めると、実質の問診には5分使えるかどうかという感じになります。First Aidを見ると、問診の項目がズラッと並んでいます。だいたい1ページ強ですが、症例によってはもっと長い。ここで大切なのは、これらを全てこなそうとはゆめゆめ思わないということです。6割以上とれれば十分ではないでしょうか? 主訴に関連した項目は、もちろん主訴によって異なります。一方、既往歴以下の項目は定型的です。僕の場合、主訴に関連する項目は思いつくだけパッパと質問し、足らないと思ってもあきらめることにしました。一方、既往歴以下は、一通りきちんと聞きました。なぜかというと、形式が決まっているので悩まずに済むからです。1点の価値はどこでとっても変わらないはず!? 自分の場合、問診全体は、ちょっと短いかなくらいの感じで終えるようにしました。振り返ってみると、それでも問診に8分くらい使っていたと思います。「残り5分(つまり10分経過)」のアナウンスの時点で問診をしていると、診察は本当に少ししかできませんので、それは避ける必要があります。その時点で、最低でも診察前の手洗いは済んでいる必要があります。

問診が済んだら、診察をしたい旨を告げ、手を洗う。診察ですが、5分使うと、たぶん説明に2分しかとれません。説明はCISに関して重要らしいので、説明に3分使うほうが得策なのではと思います。つまり、診察には、たかだか4分しかかけられないということになります。忘れてはならないのは、手洗い自体にも30秒はかかるということです。手洗いしながら頭の整理ができますが(何を診るかなど)、手洗いを済ませると、3分半しか残っていないことになります。実際に診察にかかる時間を計測してみましたが、完全なpulmonary examやcardiovascular exam、abdominal examに、僕は3分かかります。今までに合格した方たちの標準時間を知りませんので、これが長いのかどうか全く分かりません(おそらく長いでしょう)。Musculoskeltal examでは、上肢か下肢だけで僕は最低2分かかりますし、complete neurological examには僕は5分以上かかります(僕は小児神経科医なので、一応得意なはずなんだけど)。胸痛を想定してcomplete cardiovascular examと肺の聴診だけで計測しましたが、4分かかりました。つまり、これ以上のことは、今の自分にはどう転んでも不可能だということです。この時間を知っておくことは非常に大事で、いかに欲張らずに診察するかが、最後の説明にいかに時間をとれるかにかかってくると思います。

さて、説明になります。問診の時に要約をしていなければ、ここで簡単に要約します。せいぜい30秒まででしょう。時間がなければ、とばさざるを得ません。次いで、どの臓器の問題かを簡単に言い、感染だとかメカニズムも言えれば簡単に言います(時間がなければ、僕はどこどこの臓器の問題だと思うとしか言えなかった)。そして、検査を2-3つ言います。難しい検査の名前をあまり言う必要はないのではないかと思います(カルテには書きますが)。というのも、難しい検査の名前を言うと、補足説明が必要だからです。僕は、血液検査、尿検査、X-ray、CT、MRI、超音波検査についてまでしか話をしませんでした。CT以降については、簡単に補足説明をしましたが。忘れてはならないのは、SPに行えない診察です。直腸診などはSPに直接行えないので、必要であればこれらの診察を後でするという旨を伝える必要があります。子供が患者で親のみの受診や電話の場合は、子供の診察が必要と話す必要があります。これで点が追加されます。最後に何か質問がないかと聞くのも忘れてはなりません。これで1点追加されるらしいからです。ここまでを1分半~2分で済ませる必要があります。既にchallenging questionが済んでいれば、2分半でも良いかも? Challenging questionですが、First Aidの内容で十分だと思います。僕は、ほぼ全部答えることができたと思います(少なくとも、SPは納得してくれたように見えた)。答えに正解はありません。予後などについて分からなければ、正直に「I'm not sure yet. This is why I am ordering some tests to find out the exact cause. When we make the correct diagnosis, I will be able to tell you about that.」程度で良いのではと思います。質問がないようなら、結果が出たらもっと詳しく説明すると話し、ベストを尽くすと安心させる(reassureという語を明示的に使って話をすると良いと本に書いてありました。Let me reassure you ... とか、I want you to be reassured ... とか)。そして、来てくれてありがとうといい、take careと笑顔で挨拶して出て行くわけです。

練習ですが、多くするに越したことはありません。セリフは、口に出して繰り返し練習する。そして時間を計る。診察ですが、僕は友人などで練習はしなかったものですから、本番ではUSMLE step 2CSの標準以上にできた自信はありません(今はてんかんの子供しか診察していないし)。痛がっている患者さんなど、体位変換に時間がかかります(20秒くらい?)。だから 診察には思ったより時間がかかると考えてください。それに、患者さんによっては、ゆっくりな口調の方もおられます(はようしゃべれ!と言いたくなる...が、早くしゃべられると聞き取れないんだろうな、きっと)。Kaplanの5日間の講習会を受験前に受けるという良いと一般的に言われていますが、自信がなければその方が良いかも知れません。ぼくは、受講料がバカ高いので、これなら落ちたらもう1回受験する方が安いだろうと受講しませんでしたが、多くの方は日本からの受験でしょうから、飛行機代のことも考えると、受講する方が安上がりなようにも思います(僕は、Kaplanの回し者ではありません...)。

参考テキスト

僕が勉強に使ったテキストは以下のとおり。

First Aid for the USMLE Step 2 CS, Fourth Edition (First Aid USMLE)このテキストは、非常によくまとまっています。チェックリストを含めた症例が30例少しありますし、鑑別診断と検査項目を勉強するためにミニ症例が山のように載っている。試験に際してのstrategy、診察の概略、英語のセリフの例、challenging questionについての回答例等、これ1冊で全体をカバーできます。この本をしっかり勉強してしっかり練習しておけば、おそらく合格レベルに達することができるのではないかと思います。このテキストのチェックリストの6割をとれれば大丈夫では(勝手な希望的観測です)。

Bates Guide to Physical Examination and History-Takingこのテキストには、US式の診察法の全てが載っています。カラー写真とイラストが多く、とてもためになります。この試験だけでなく、一生使える教科書だと思います。診察に関する細かい疑問が浮かんだら、開いてみると良いでしょう。内容が省略されたポケット版もあります。




アメリカ臨床留学大作戦―USMLE,英語面接を乗り越えた在米研修医による合格体験記と留学に役立つ情報アメリカ臨床医学留学大作戦

USへの留学を志す方なら、手に取って立ち読みくらいはしたことがきっとあるだろうと思えるくらいの有名な本です。USMLEからマッチングまでの流れが見渡せるので、全体の流れをつかむのに良いですね。USMLE step 2CSについても、概略と基本的な考え方が記載されています。ただし、問診のセリフや診察法などは、上記の2冊などを使う必要があります。


CS Checklists: Portable Review for the USMLE Step 2 Cs (Clinical Skills Exam)CS Checklists: Portable Review for the USMLE Step 2CS

このテキストには、50例強の症例が載っており、詳細なチェックリストが付いています。チェックリストの内容は、First Aidよりも細かい。ただ、ちょっと細かすぎるのではないかと思います。なぜなら、どう考えてもこれらを網羅するのは不可能だからです(First Aidでも不可能)。このテキストは、First Aidをまず通読した上で、さらに知識をつけたい場合に読んだら良いのではないかと思います。

参考ウェブサイト

My USMLE step 2 CS (CSA) study Notes-N-Tips-N-Tricks

このサイトは英語のブログ形式になっており、試験の準備、試験の実際の進み方、語呂合わせなど、多くの情報が満載されています。左側のサイドバーを目次代わりにして、必要な情報にすばやくアクセスできます。ここのサイトには、本当に色々お世話になりました。

その他のポイント

ところで、入室前に作るメモですが、各人で気に入ったフォーマットを作る必要があります。入室前にSPの情報を確認して転記しますが、最低でも必要なのは、患者のlast name(苗字)、主訴、ヴァイタルサインの異常値です。あとは、上記のアメリカ臨床医学大作戦にも書いてありますが、紙を適当なスペースに分けて、語呂合わせmnemonicを書くわけです。ネットには主訴ごとに山のようにmnemonicが出回っていますが、僕にはそんなに覚えられる記憶力はありませんでしたので、全てLIQORAAA PAM HUGS FOSSで通しました。ただし、LIQORAAAは痛みに関してのものですから、主訴が異なれば、適当に変える必要があります。Associated symptoms(主訴に関連する症状)では、僕は呼吸器系を疑えば呼吸器系の質問(息切れ、咳、痰等)、消化器系では消化器系の質問(嘔気、嘔吐、便秘、下痢、体重減少等)をかたっぱしから尋ねる作戦にしました。と言っても、ROSを一通り尋ねましたというほどしっかり記憶していませんから、いばれませんが。ちなみに、ここは、症状を羅列するわけですから、「Do you have chest pain? Any shortness of breath? How about cough?」などというように簡単な英語で尋ねれば時間を節約できると思います。

あと、Social historyでsmokingなどの問題がある際には、目立つマークをメモに書き込んでおいて、最後のカウンセリングで忘れず話せるようにしておくと良いです。また、SPに行えない診察項目ですが、主訴を見た時点で可能性のある項目を簡単に書いておくと良いと思います。例えば、女性の腹痛が主訴であればpelvic exam & rectal exam、消化器系の主訴であればrectal exam、無月経であればpelvic exam & breast examという具合です。カウンセリングはCISにかかわってくるみたいなので、なるべく点を落としたくないからです。

最後に、なるべく冷静でいられるように努めることです。しかし、これは口で言うほど簡単ではありません。僕なんか、ふだんの仕事での診察の方が段違いにリラックスしていますから。これは、つまるところ、特定の疾患の診察をどれだけ練習をしたかによります。なぜかと言うと、僕の場合、確か4番目くらいで、とても分かりやすいケースがあって、自分としてもかなりうまく行けたんですね。質問にSPがきっちり答えてくれるし、診察所見も分かりやすい。Challenging questionにも答えられたし、説明についてもそれなりに出来た。これで軌道に乗った気がして、少し冷静になりました。願わくば、このようなケースにもっと2番目くらいで当たってほしかったけど... だから、もっと多くの事例で練習をしておけば、スッとうまくいくケースに当たる確率が高まり、そして落ち着くことができるわけです。いったん落ち着いてしまえば、よく分からないケースに遭遇しても、まぁそれなりに流すことができるようになる。当たり障りのない質問をして、定型的な質問をして、怪しそうなところを適当に診察して、怪しそうなところを検査しますと話すわけです(ホントにこれでいいのかな?)。正直、あまり見当のつかないケースもいくつかありました。でも、この試験はそういうものみたいですから、たぶんそうなんでしょう。

以上、自分なりに対策と思えるものを、受験の経験を踏まえて書きました。



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