2017/03/25

脳波のclinical correlation

年度末業務に追われております。

脳波レポートを書くにおいて、所見の本文を書いた後、最終評価を書きます。

カナダで教わったのは、その次にclinical correlationを書くことでした。Clinical correlationとは、直訳すれば、臨床所見との関連付けとでもいいましょうか。

え、なんでこれが必要?

と思うかも知れません。

実は、脳波の所見の解釈は状況によって異なりますし、素人には解釈ができない場合もあるからです。

例えば、右中心側頭部から、てんかん発射が出ている。波形は、ローランド発射の形態です。脳波の最終評価としては、異常脳波(右中心側頭部からのローランド発射)になります。

ですが、ある患者さんでこの所見が見られた場合、この方の診断は何になるのでしょうか?

これには臨床情報が必要です。

仮に、左顔面けいれんの病歴のある学童期の患者さんであれば、中心側頭部に棘波を示すてんかん(いわゆるローランドてんかん)が疑われます。この場合、clinical correlationは、病歴と総合すると、中心側頭部に棘波を示すてんかんが示唆されるとなります。

ですが、発作の病歴のない場合はどうなるのでしょうか? この場合、脳波異常のみで特定の診断にはなりません。Clinical correlationとしては、発作の病歴のない場合、この所見の臨床的意義は明らかではない等の書き方になるでしょう。

別の例として、発作の病歴があるのに正常脳波の場合、どうなるでしょうか?

カナダでは、以下のように教わりました。

正常脳波であっても、てんかんは臨床診断であるため、てんかんの診断は除外されない。病歴を含め総合的に判断を。

右前頭部に多型性(polymorphic)徐波がみられる場合、どうしましょうか?

患者さんが通常の意識状態で記録された脳波であれば、右前頭部に局在性の脳機能低下が示唆される。器質的病変の鑑別も必要なため画像検査の検討を、あたりでしょうか。細かく言えば、白質を含む障害があるも言えると思います。

しかし、てんかん発作の直後に記録された脳波であれば、上記に加え、右前頭部から始まったてんかん発作後の脳波変化をみている可能性もあります。

このように、同じ脳波でも、文脈によって解釈は異なります。

そのため、脳波レポートを書く際には、ここまで書くのが理想です。

自分達の診療科のみであれば、そこまで書かなくてもだいたい通じるのですが、カルテは他科の医師も読むことがあります。また、他科の医師から脳波判読を依頼される場合もあります。このような場合に、clinical correlationの記載がないと、脳波にてんかん発射があるから(発作がないにもかかわらず)てんかん、(発作があって臨床的にてんかんと考えられるのに)脳波異常がないからてんかんではない、といった誤解を招いてしまいます。

脳波は正常異常のみならず、その意味まで考える。これが大切です。

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2017/03/11

脳波クイズ A4

前回のクイズの回答です。レベルは3くらいです。成人の脳波しかご存知ない先生だと、レベル5くらいに感じたかも?

A4

1. 縦連結の双極導出、いわゆるダブルバナナモンタージュです。

2. 睡眠時記録です。

3. 睡眠紡錘波(sleep spindles)です。

4. 正常脳波です。

解説

モンタージュは、Q1と同じです。4本ずつ左、右になっており、上の8本は側頭部を通り、次の8本は中心部を通ります。

睡眠時記録と考えるのは、後頭部優位の律動が出ておらず、睡眠紡錘波(sleep spindle)が出ているからです。ちなみに、8か月児では、後頭部優位律動の周波数は6~7Hz程度であり、θ律動です。α律動ではありません。

非レム睡眠段階2(sleep stage N2)に入ると睡眠紡錘波が出現します。下図の四角で囲ったのが睡眠紡錘波であり、青が左半球、赤が右半球からのものです。乳児期の睡眠紡錘波は成人のそれとは異なり、やや尖った形態を示します。

20170310

正常か異常かですが、これは正常脳波です。

睡眠紡錘波は左右同時に出現するのが原則です。左に出ていれば、その時には右にも出ている。そうでなければ異常です。

しかし、乳児は例外です。左右大脳半球の連絡が未成熟であるため、睡眠紡錘波は左右バラバラに出現します。この現象は、2歳までは正常と考えられています。

バラバラに出現するは言っても、ある一定時間の中で数えれば左右の出現回数には大差ありません。もし、片方が明らかに少なければ、少ない側の大脳半球に問題ありと考えます。

年長児以降で睡眠紡錘波が左右別々に出る場合は、異常です。脳梁欠損等、左右大脳半球の連携がよくない場合に、このようなことが起こります。

左右バラバラ紡錘波、大人と違うよ赤ちゃんは

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2017/03/04

脳波クイズ Q4

次なるクイズです。

Q4. 8か月女児。以下の質問に答えてください。

1. モンタージュは何か?

2. 覚醒時記録か、睡眠時記録か?

3. 持続2秒弱の特徴的な律動波形が出ている。何か?

4. これは正常脳波か、異常脳波か?

20170304

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2017/03/01

脳波クイズ A3

前回のクイズの回答です。レベルは、4~5くらい?

A3.

1. 同側耳朶を基準とする左右交互の基準導出(referential montage)です。

2. 睡眠時記録です。

3. 左側頭部、右側頭部、正中前頭~中心部からの突発波が出ています。前2つはてんかん発射で異常波形、最後の1つは頭蓋頂鋭波(vertex sharp transient)であり正常です。

4. 尖った波形のピークに向かう立ち上がりの傾斜、下がってくる部分の傾斜、引き続く徐波に違いがあります。解説参照。

5. モンタージュを変える。解説参照。

解説

モンタージュは、Q2と同じですので、省略します。

睡眠時記録と判定できるのは、後頭部優位のα律動がみとめられず、後述する頭蓋頂鋭波が出ているからです。

突発波ですが、大雑把に、左側頭部(T3、下図の青丸)、右側頭部(T4、赤丸)、正中前頭~中心部(Fz-Cz、緑の丸)を最大電位とする突発波が出ています。緑の丸は頭蓋頂鋭波(vertex sharp transient)で正常波形です。青丸と赤丸はてんかん発射で、棘波(spike)、棘徐波(spike-and-wave)、もしくはやや幅の広いものは鋭波(sharp wave)です。

20170301_1

てんかん発射と頭蓋頂鋭波は、波形そのものが異なります。基準導出で見ると、てんかん発射は、尖った頂点へ向けての立ち上がりの傾斜が比較的強く(より垂直)、下がってくる時はやや緩やかな傾斜になります。そして、直後に上向きのドーム型の幅広い波(徐波)が続くことが多いです。図では、真ん中付近の青丸、赤丸がそういった特徴を備えていると言えるでしょう。頭蓋頂鋭波は、立ち上がりの傾斜がてんかん発射ほど鋭くなく、上がり下がりの傾斜がそんなに差がありません。図の左側の緑丸は分かりやすい例かと思います。

部位の違いを分かりやすくする方法は、モンタージュを変えてみることです。元の図は左右交互の表示ですが、これを左半球、右半球、真ん中と表示する方法が1つです。その他の例として、横連結の双極導出を見てみましょう(下図)。この場合、真ん中(上から8~11本目)が、左側頭部から正中部を通り右側頭部に向かう表示になっています。青、赤、緑の尖った波が全く違った表示のされ方になりますので、分布の違いが明瞭になります。

興味のある所見を見つけたら、見やすい表示に変更してみることはとても大切です。

20170301_2

ちなみに、この脳波は、中心側頭部に棘波を示すてんかん、いわゆるローランドてんかんの方の脳波でした。

てんかん波のとんがり具合は非対称(上りはきついが、下りは楽)、後ろに徐波。

気になる所見は見やすい表示にして強調!

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2017/02/23

脳波クイズ Q3

久しぶりに脳波クイズです。

先日の全国てんかんセンター協議会総会でお会いした先生に、「このクイズは面白い」と言っていただきましたので、やる気アップです。

我こそはと思う方は、回答のコメントを下さい(管理人の承認後に掲載されます)。

Q3. 12歳男児。以下の質問に答えてください。

1. モンタージュは何か?

2. 覚醒時記録か、睡眠時記録か?

3. この脳波には、部位(≒最大電位の場所)が異なる突発性の波形(てんかん発射とは限らない)が複数出ています。部位はどこか? それぞれの波形は正常か、異常か?

4. 部位以外に波形そのもので異なる点はあるか? あるとすれば、その意義は?

5. 部位の違いを分かりやすくする方法は?

Bects_referential

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2017/02/01

脳波クイズ A2

前回の解答です。

レベル的には、3辺りでしょうか。

A2.

1. 同側耳朶を基準とした基準導出(Referential montage)です。

2. 覚醒時記録です。

3. 瞬目(まばたき)によるアーチファクトです。眼球運動によって起こります。

4. 右の耳朶電極(A2)由来のアーチファクトです。

解説

モンタージュについては、頭部の電極で左半球のもの(数字が奇数)は左耳朶(A1)、右半球のもの(数字が偶数)は右耳朶(A2)、正中部はどちらとも言えないため左右交互につながっています。同側耳朶を基準とする基準導出です。

後頭部に着目します。O1-A1とO2-A2をみると、赤い四角で囲んだように、サイン波様の規則正しい波が出ています。このようにある程度規則的に繰り返すものを律動(リズム)と呼びます。周波数は8-9Hzで、これはα帯域(8Hz以上、13Hz以下)に含まれますので、α律動(alpha rhythm)です。振幅は50-100µV強といったところで、他の部位ではここまで高くありません。つまり後頭部優位性があるということです。

所見としては、「両側後頭部優位に50-100µV、8-9Hzのα律動が出現している」と記載します。正式な報告書ではもっと詳しく記載しますが、それはまた後日。

後頭部にα律動がみられるということは、覚醒を示す根拠になります。α律動は、安静、覚醒、閉眼という3つの条件がそろって出現するからです。

20170201_1

赤丸で示された下方向の大きな振れですが、前頭極部(Fp1、Fp2)が主体です。前頭部(F3、F4)でも少し拾ってはいますが。これは典型的な瞬目によるアーチファクトなので、波形をよく覚えておかれるとよいと思います。

瞬目によるアーチファクトが眼瞼の動きで起こるのではないか?という質問を受けることがありますが、眼瞼の動きではありません。筋肉の収縮による活動はもっとも短くて鋭く、「一瞬」なのです。

瞬目した際には、眼球がちょっと動きます。目を閉じると、みんな眼球が上に動きます。これは、ベル現象と呼ばれます。目を開けると、正面に戻ります。つまり、瞬きをすると、ごく短時間だけ眼球が上に行き、下に戻るということになります。

眼球は電荷を帯びています。網膜がマイナス、角膜がプラスです。簡単に言えば、眼球の前側がプラスです。

瞬きすると、眼球の前側(プラス)が短時間上に動いてFp1、Fp2電極に近づきますので、Fp1、Fp2の電位がプラス側に振れます。脳波では、陰性を上向きに表示するルール(negative up)ですので、Fp1とFp2の波形は下方向に振れることになります。直後に眼球は下に戻りますので、Fp1、Fp2電極から眼球のプラスが離れていき、Fp1、Fp2の電位は元に戻ります(マイナス側に戻る)。すると、脳波の波形は上向きに振れます。結局、1回瞬きすると、Fp1とFp2では脳波が下に振れて上に戻る、という形になります。

最後に青い丸ですが、1つおきに赤色の線(右半球)の電極では全部に下向きの振れが入っています(丸は上の4つにしかしていませんでしたが)。この場合、これら全部に共通している電極であるA2、つまり右耳朶の電極の影響が考えられます。ヒントとして、下から2番目(心電図の上)に耳朶同士を結んだ記録(A1-A2)を入れておきましたが、これでもよく似た波形が入っており、A2由来の波形だと推測できます。

このように、同側耳朶を基準とした左右交互表示の基準導出で、1つおきによく似た波形がみられた場合には、まず耳朶電極由来の波形(多くはアーチファクト)を疑います。

これが脳波活動でないことは、モンタージュを変えれば簡単に分かります。例えば、縦連結の双極導出。

20170201_2

この表示では、耳朶電極が含まれておらず、右半球にみられたカクンとした動きは見えなくなっています。

というわけで、今日のまとめは、

探せ、後頭部のα律動。

まばたきでは眼球が動き、脳波で見える。

基準導出で一側半球全体の活動では、耳朶電極をチェック。

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2017/01/26

脳波クイズ Q2

脳波クイズ第2弾です。

Q2. 7歳女児。以下の質問に答えてください。

1. モンタージュは何か?

2. 覚醒時記録か、睡眠時記録か?

3. 赤丸で示した下方向の大きな振れは何か? 何故起こるのか?

4. 青丸で示した下方向の小さな振れは何か?

20170126

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2017/01/23

脳波クイズ A1

前回の脳波クイズの解凍です。

小児で時折みられる鋭い波形についての問題でした。

レベル的には、1(簡単)~10(難しい)のスケールで、3あたりです(僕の独断です)。

A1.

1. 睡眠時記録です。

2. 縦連結の双極導出。俗にダブルバナナ(double banana)と呼ばれるモンタージュです。

3. POSTsと呼ばれる波形で、正常亜型(normal variants)の1つです。

4. モンタージュを基準導出(referential montage)に変更すると、後頭部に下向きに現れることで確認できます。下の図の赤丸に注目してください。

20170123_1

解説

後頭部にα律動がみられず、画面中央部に頭蓋頂鋭波(vertex sharp transient、赤色の四角)、その右に睡眠紡錘波(sleep spindle、緑色の四角)がみとめられるので、非レム睡眠2段階(stage N2)の記録です。

20170123_2

モンタージュは、10-20電極法の電極配置図を参考にしてください。電極同士を線で結ぶと2つのバナナが見えますので、ダブルバナナと呼ばれます。

赤丸の波形は、POSTs(positive occipital sharp transients of sleep)と呼ばれる波形で、浅い睡眠でみられます。連発する場合もあります。Positiveとあるように、陽性波形ですので、基準導出では下向き(脳波では、陰性が上向き)になります。てんかん発射は通常は陰性ですので、上下の向きが異なるわけです。

小児のPOSTsは成人よりも鋭い波形を示すことがあり、頭頂部や後側頭部からのspikeと間違われやすいため、要注意です。正常亜型(normal variants)の1つですが、正常亜型とは、比較的少数の人にみられる病的意義が明らかではない波形のことです。

POSTsは慣れればすぐに分かりますが、自信がない場合には基準導出で確認した方がよいです。今時のデジタル脳波ではモンタージュ変更が簡単ですから、試してみてください。

Spikeと間違えるな、子どもの鋭いPOSTs。

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2017/01/19

脳波クイズ Q1

脳波をなかなか勉強する機会がない、という先生方は多いと思います。

脳波判読が上達するベストの方法は、熟練した上級医と一緒に討論しながら読むことです。

とは言っても、なかなかそういった研修ができる施設は乏しいので、何かお役に立ちたい。

そのため、不定期に脳波クイズを出すことにします。

というわけで、記念すべき第1問。

Q1. 7歳女児。以下の質問に答えて下さい。

1. 覚醒時記録か、睡眠時記録か?

2. モンタージュは何か?

3. 赤丸で示した尖った波形は何か? 正常、異常?

4. この尖った波形の正体を確かめる良い方法は?

20170119

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2016/08/14

脳波セミナー

今月末に、主に小児科医を対象とした、職場主催の脳波ハンズオンセミナーを開く予定です。5回目になります。

参加申し込みを多数いただき、募集は既に締め切っております。

脳波は歴史のある検査ですが、とても有用な検査です。

こどもの神経疾患、特に発作性疾患はわりと多いです。病院で小児科医をやっていて、そこに小児神経専門の医師がいなければ、ある程度自分で読む必要が出てきます。なので、このセミナーの需要はあるのだろうと考えています。

脳波判読に上達する近道は、脳波に慣れた指導医と一緒に討論しながら読むことです。

脳波の基本は、教科書にすべて書いてあります。脳波の講義も行いますが、ハンズオンのセッションでは、自分が脳波を読むさまをリアルに体験していただきたいと考えてます。

いずれは、このブログでも、脳波判読の基本について書きたいと思います。

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