2020/09/11

ミダゾラム口腔用液の実際の使用はどうなるのか?

鳴り物入り(私の中では)で登場したミダゾラム口腔用液ですが、前回懸念事項があると書きました。今回は、これについて書きます。

一言で言うならば、ありふれた表現ですが、諸刃の剣だということです。

座薬は吸収に時間がかかります。血中濃度はじわじわ上がり、ピークもそれなりです。火にじょうろで水をそそぐ感じでしょうか?

ミダゾラム口腔用液は数分で治療濃度に到達します。つまり、吸収が早く血中濃度のピークも高くなります。だからこそ、現在続いているてんかん発作を止めることができるのです。燃えている火に大量の水をバケツでかける感じです(もう少し強力かも)。

静脈注射の場合はもっと早く、より確実に効きます。血中濃度が十分上がるからです。火に消防車で放水するようなもの?

一方、早く効くということは副作用も出やすいということです。

例えばミダゾラム注射液(ミダフレッサ)をてんかん重積状態の治療で使う場合、必ず酸素と人工呼吸用のバッグを横に用意し、必要に応じて気管内挿管もできるような体制で使います。ミダゾラム注射液は従来使われていたジアゼパム注射液よりも呼吸抑制は起こりにくいという話ですが、起こらないわけではありません。

座薬は前回書いた通りおまじないですから、副作用もそれなりです。とはいっても、ふらつき、眠気、興奮などは起こりますので、例えば転倒による外傷対策などの注意喚起が必要です。

ミダゾラム口腔用液の副作用は、ちょうどこの間に入るかと思われます。注射薬よりは軽いでしょうが、それでも数分で効くお薬です。患者さんの体質によっては、副作用が目立つ場合もあるかと思います。ウイスキーで平気な人もいれば、ビール少しで気分が悪くなる人がいるように体質には個人差があります。また、その時の体調にもよります。そして、これは使ってみないと分かりません。

なぜ副作用を心配するかと言いますと、病院外での使用を前提としたお薬なので、使った際に起こった副作用に誰がどのように対応するかという問題が出てくるからです。

たぶん一番問題になるのは学校での使用です。今は抗てんかん薬に関しては座薬のみ使えます。今後ミダゾラム口腔用液を使って欲しいという話になった場合、上記の問題への対策は必ず要求されることでしょう。

もう1つ気になるのは、処方の規制がどうなるかについてです。この辺りは当局が対策を考えられることかと思います。

|

2020/09/10

ミダゾラム口腔用液が承認されました

大きなニュースです。

先月末、ミダゾラム口腔用液の日本国内での製造販売が承認されました。

なぜ大きいかと言いますと、日本におけるてんかん重積状態の救急治療、特に初期治療に大きな変革をもたらすと考えられるからです。

今まで、日本ではてんかん重積状態の病院前治療が極めて不十分でした。

学校などから、「てんかん発作が起こった時の対応」について問い合わせを受けることがあります。

私の通常の回答は、外傷防止、誤嚥防止、症状観察、長ければ救急搬送です。

よく座薬の使用について聞かれます。ダイアップ、エスクレなど。

あえて強く言うならば、すべて無駄です。よく言って、おなじない程度です。なので、原則座薬は不要と回答しています。

座薬なんて現在起こっている発作を止めるのに効きやしません。吸収に時間がかかるし(最低でも15分以上かかるでしょう)、血中濃度も十分上がらないからです。「座薬を入れて10分で発作が止まった」なんて話を聞きますが、たぶん10分で自然に止まったのです。

もちろん、座薬があらゆる意味で役に立たないと言っているわけではありません。正しい使い方をすればよいのです(今回は述べません)。

発作が止まらないのなら、止める治療を行える医療機関へ救急搬送するのが最善の選択です。しかし、治療開始が病院到着後になるので、発作が始まって30分以上経過していることが多くなってしまいます。

なぜ、発作を早く止める必要があるのでしょうか?

てんかん発作は長く続けば続くほど、止まりにくくなるのです。脳内の抑制系が破綻し、興奮系がより活発になってしまいます。また、脳へのダメージも起こる確率が上がります。そのため、なるべく早く止める必要があるのです。

ミダゾラム口腔用液があれば話は別です。これは、現在続いている発作を止めるために開発されたお薬だからです。

使用すると数分で効果が出てきます。非常に強力な武器であると言えるでしょう。今までとは一線を画したてんかん重積状態の初期治療が行えます。

ようやく待ち望んだ薬剤が世に出ることになりました。

ただし、実際の使用においては懸念事項も色々あります。これについては、後日述べることにします。

|

2020/09/02

移行医療について その1

移行医療(transition)という言葉があります。

慢性疾患をもつ小児の患者さんが成長された際、どこかで成人科へのバトンタッチを考えることになります。これが移行医療です。

移行医療は神経疾患に限りません。様々な分野で行われます。

色々と問題は山積みで、当事者である患者さんも色々と悩まれることが多い状況かと思います。

根本的な問題として、何故成人科へ移行が必要なのか?

てんかんの診療において、患者さんにこう言われることがあります。

てんかんの治療だけしてくれればよい。ほかの病気は内科にかかるから。

小さい頃からずっとかかっておられたので、これからも診て欲しいと言ってくださるのはありがたいことではあるのですが...

実際には、こんなに簡単にはいきません。

色々なことが実際には起こります。

  • 他の疾患で近くの病院の内科に入院しようかという話になったが、てんかんへの対応ができない(たとえ現在発作が落ち着いていたとしても)という理由で断られた。
  • 遠方の方で、てんかん発作が長く続くので今までかかっていた救急病院小児科を受診しようとしたところ、「18歳以上は診ない」といわれた。
  • てんかん発作で救急搬送され入院が必要になったが、小児病棟への受け入れを断られた。

その他、以下のようなことがあり得るかも知れません(まだ経験していませんが)。

  • 「体調不良」とうかがっていたが、当方では診断がつかず、何かの機会に内科を受診したところ、癌の診断がついた。
    小児科医が成人の癌を診断するのは正直無理です。内科をローテイトした研修医が先に見つけたという話も聞いたことがあります。
  • 「記憶力が落ちた」と聞き、抗てんかん薬の副作用かななどと思っていたら、認知症(もしくはめずらしい神経変性疾患)だった。
    脳神経内科医とはふだん診る疾患が全く異なるので、鑑別診断に浮かんできません。
  • 久しぶりに発作を起こして救急搬送された。いつものてんかん発作かと思っていたら、新規の脳梗塞だった。
    成人科では超急性期医療の対象になる可能性があり、治療体制が整えられています。小児科医が初期対応すると初動が遅れます。

つまり、病状が落ち着いているときはまずまずよいのですが、何か起こったときに対応が難しいのです。

我々はたくさんの患者さんを診ていますから、「うまくいかなかった」苦い経験は色々とあります。それらを踏まえ、最近は以下のようなことを思っています。

自分が診ている患者さんに何か起こった際、緊急対応ができない状況を放置するのは医師として無責任である。

その答えの1つが成人科への移行です。成人科での医療で完結していただくのです。成人科の先生には、我々にはないネットワークがありますから。

簡単に移行できない方の場合は、救急対応先を探して事前に話を通すようにしています。具体的には、状態が落ち着いている時にその病院の脳神経内科を受診していただくのです。紹介状には「救急受診された場合の対応をお願いします」と書き、患者さんには「忘れられないように最低でも半年に1回は受診するように」と伝えています。脳神経内科のバックアップがあれば、その病院の救急科や内科の先生の不安も軽減されるだろうと期待しているわけです。受け入れがよい状況であれば、徐々にその病院への移行を目指します。医療ソーシャルワーカーにも協力を求めます。

でも、そんなに脳神経内科ってあるの?

という声が聞こえてきそうです。

岡山県には、岡山県てんかん診療ネットワーク(Okayama Prefectural Epilepsy Network, OPEN)が作られており、岡山市内の総合病院・神経専門病院、倉敷・津山方面の総合病院におられる脳神経内科の先生が、てんかん患者さんの受け入れに手を挙げてくださっています。脳神経内科のてんかん専門医も着実に増えてきています。最近は、「顔の見える関係」づくりに取り組んでおり、「紹介のしやすさ」も実感しています。このネットワークは2年ほど前により実効性を高めるために再編成し、ご協力をいただけそうにない医療機関はリストから外しました。

移行移行と聞こえよく言ってはいるが、実質はいきなりの転科・転院じゃないか!

という批判は聞こえてきそうです。

いきなりの転科・転院に心配される方の場合、当面の間、紹介先の脳神経内科と我々の科を併診していただくという選択肢を提案しています。この場合、お薬の処方は先方にお任せし、当方では必要に応じて意見を述べさせていただく、もしくは患者さんからの相談のみお聞きするといった形です。これを5年近く続けて転院が終了した方もおられます。

移行というのは紹介先の受診ですぐ終わるとは限りません。数年前から準備を始めますし、紹介先を受診してからもフォローをしばらく続けることもあります。もちろん、一発で終わる方もけっこうおられるのは事実ですが。

小さい頃からずっと診ていた患者さんとお別れするのは寂しいことですが、我々が診るには不適切な時期になっても診療を続けるのは無責任ですので、何がよいのかを考えながら試行錯誤しています。

|

2020/08/15

SSADH酵素活性

前回、酵素活性測定の準備中と書きました。

現在、コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素(SSADH)の酵素活性測定を試みています。

SSADH欠損症は、発達障害、知的障害、てんかんなどを引き起こす疾患で、抑制性神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)の代謝経路の異常です。尿中にγ-ヒドロキシ酪酸(GHB)が大量に排泄されることで見つかります。尿中有機酸分析で見つかるとされていますが、GHBに注目していないと見逃されやすいとされています。尿中メタボローム解析では最初から対象疾患になっていますので、お勧めです。頭部MRIにも特徴的な異常がみとめられます。詳しい放射線科医であれば、一発診断かも(そういう事例があったと知り合いの医師から聞きました)。

SSADH欠損症は抗てんかん薬のバルプロ酸内服で症状が悪化する可能性があります(バルプロ酸は残存しているSSADH活性をさらに阻害する)ので、正しい診断により使ってはいけないお薬が分かるということは極めて大切です。

本当に測りたい酵素は別にあるのですが、測定方法が似ており、ヒトリンパ球で確実に活性が測れる報告があるSSADHをまずターゲットとしました。

先行研究にならい、pHなどの条件の調整を行い、活性が測れることを確認することができました!

もちろん、何度か失敗がありました。初回は活性ゼロでしたし...

今後は健常人ボランティアでの測定を行って基準値を決定し、その後は患者さんでの測定に進むつもりです。

以前にSSADH欠損症の症例報告を書いた際には、オランダ(だったか)に検体を送って測定してもらいました。共著者の施設と費用を折半したのですが、検体輸送費と測定費で20万円くらい(もしくはそれ以上)かかった記憶があります。

外部からの測定依頼を受け入れるためには、クリアするべき課題がいくつかありますので、こちらも検討していきたいです。

|

2020/08/06

酵素活性測定

最近、酵素活性測定の実験を始めています。

先天性代謝異常症の多くでは、遺伝子異常により体内の何らかの酵素の異常が起こります。

その酵素で触媒される化学反応が滞り、生体に重要な物質が作れなかったり、生体にとって不要な物質が分解されなかったりします。重要な物質が足らなければ十分な機能が発揮できないことになりますし、不要な物質が溜まってしまうと毒性が問題になります。

遺伝子検査の進歩により、多くの先天性代謝異常症が遺伝子診断されるようになってきています。そのような時代になっても、酵素活性測定の重要性は揺るぎません。

何故かといいますと、遺伝子変異が見つかったとしても、これが本当に酵素の機能に異常をきたすのかどうかは分からないからです。

以前に同じ変異で同じ疾患に罹患した方が報告されている、コンピュータ予測(いろいろな方法がある)で病原性が予測される、といった理由で間接的に病原性ありと判定することはよくあります。しかし、従来報告されていない変異、コンピュータ予測の結果が割れた変異、そして疾患が疑われるのに遺伝子変異が見つからない(もしくは2つ必要なのに1つしか見つからない)といった場合には、病原性の予測は難しくなります。

酵素活性測定はこういった場合に有用で、たとえ遺伝子変異が十分見つからなかったとしても、酵素活性が下がっていれば、そこの化学反応に問題が起こっているということを少なくとも示すことができます。また特定の遺伝子変異が本当に酵素活性を落とすのかどうかは、発現実験(変異した遺伝子から酵素を作り、それで活性を測る)を行うことにより、証明できます。

先天性代謝異常症に関する研究論文や症例報告を行おうとすると、酵素活性を測るよう求められることが多々あります。海外のラボで測ってもらおうとすると、検体の輸送費用で10万円、測定費用で10万円以上かかったことがあります。

こういった事情もあり、自前で測れるとよいなと思って実験しています。

|

2020/06/06

検体保存の重要性

小児神経領域では、原因不明のてんかんや発達の遅れなどの患者さんを診る機会が多くあります。

精査が必要と考えた場合には入院のうえで検査を行いますが、特に先天性代謝異常症の可能性を考えての検査の場合、治療開始前の検体を残しておくことはとても大切だと思います。

というのも、治療(トライアル治療も含む)を始めた後でも異常値のままの代謝マーカーはあるのですが、治療が入ってしまうと正常化してしまったり、検査の信頼性が失われてしまったりといったものもあるからです。

保存条件の記録も大切で、保存までどのくらい室温に置かれていたか、測定までに何度で保存されたか(冷蔵庫の4℃、フリーザーの-20℃、ディープフリーザーの-80℃)が分かることは大切です。室温で不安定な物質など、色々あるからです。保存条件の記録がない場合、結果の解釈に悩むことがあります。

また、私はビタミンB6類の分析をしていることもあり、検体が適切に遮光されたかどうかがいつも気になります。無色透明の容器で明るい室内に置いておくと、ビタミンB6類は光で分解されるので、測定値が徐々に下がってきます。遮光(茶色)のチューブがベストですが、無色透明のチューブを使わなければならない場合、蓋つきの不透明な容器に入れたり、チューブ全体をアルミホイルでくるんだりするよう、若手に指導しています。

後々に検査が必要になった時のために検体を残しておく場合、どのように保存されたかの記録も残しておく(または、標準的な保存方法を決めておく)と、とても有用だと思います。

|

2020/05/28

鵜呑みにしない

上の先生に言われたことを鵜呑みにしていませんか?

もちろん、駆け出しの頃は経験がないわけだから、上の先生の真似をし、言われたとおりにした方が間違いが少ないでしょう。

ですが、ある程度自分でできるようになったら、自分の頭でよく考える必要が出てきます。

まずすべきことは、上の先生がなぜそのようにしているのか理由を考えることです。色々調べてみて、裏をとることは大切でしょう。その結果、納得がいくのであれば、それでよいと思います。

納得できない場合、よく考えねばなりません。単に自分の勉強不足かも知れません。上の先生が言われたことが間違っているのかも知れません。よーく考える癖をつける必要があります。場合によっては、方向を180度転換する必要すらあります。

とても偉い先生、世界的に有名な先生が言っていたとしても、盲目的に従ってはなりません。間違っていることはあるのです。代々間違った教えが受け継がれていることもあります。当時は正しかったのかもしれません。しかし、時代とともに新しいことが分かってくるので、ずっと正しいとは限りません。

よく考えて、自分なりの答えを見つけたいものです。見つけられた時は、とてもうれしいです。ただ、それが間違っている可能性はゼロではありません。油断は禁物です。新たな情報が判明したら、方向転換する必要があるかも知れません。

若手を教える立場になりましたが、自分も間違っていることをいくらか(もっと?)は教えていることでしょう。勉強を続けるのは必要で、知識のアップデートをしていかねばなりません。

|

2020/05/01

ピリドキシン依存症の新しいバイオマーカー

共同研究先の先生が、ピリドキシン依存症(ALDH7A1欠損症)の新しいバイオマーカーに関する論文を出版されました。私も共著者の1人です。

この疾患のバイオマーカーは、α-アミノアジピン酸セミアルデヒド(α-AASA)ピペコリン酸です。

ALDH7A1遺伝子でコードされるα-AASA脱水素酵素の活性低下によりα-AASAが上昇し、さらにその上流のピペコリン酸も上昇します(稀に例外あり)。

α-AASAは水溶液内ではΔ1-P6Cという物質と平衡状態にあり、このΔ1-P6Cが活性型ビタミンB6を不活化し、脳内のγ-アミノ酪酸(GABA)産生が滞り、てんかんを発病すると考えています。なので、足りなくなったビタミンB6を大量に補えば、発作が改善するという仕組みです。

α-AASAの問題点は不安定であること。また、Δ1-P6Cと平衡状態にあることから、絶対定量は困難でした。

最近、コロラドのグループより、LC-MSとNMRを用いた研究で、6-オキソピペコリン酸がα-AASAよりも安定で有用なマーカーであることが報告されました。また、α-AASAとΔ1-P6Cの平衡の間に、6-ヒドロキシピペコリン酸という物質があることも報告されました。直鎖であるα-AASAが環を巻くと6-ヒドロキシピペコリン酸になり、これが脱水するとΔ1-P6Cになるという順番です。そして、この6-ヒドロキシピペコリン酸から6-オキソピペコリン酸に変換される経路があるらしいのです。また、このグループは、Δ1-P6Cの他にΔ2-P6Cという物質もあるらしいと推測する記載をしていました。

この論文が出た時点で、私の共同研究先の先生はGC-MSを用い、ALDH7A1欠損症の尿中に6-オキソピペコリン酸を既に同定していたのですが、先を越されてしまったと言っておられました。その後、ALDH7A1欠損症の尿中にΔ2-P6Cが確実に存在することを確認されました。さらに、6-オキソピペコリン酸は年長児で高く、新生児期には低いことも示されました。ピペコリン酸は逆でした。これらの結果をまとめ、めでたく論文にされました。

これで、ピリドキシン依存症の診断につながるバイオマーカーが4つになりました。

α-AASAとピペコリン酸は、我々のラボで定量できます(α-AASAは半定量)。

6-オキソピペコリン酸とΔ2-P6Cは尿中メタボローム解析で測定できます。尿中メタボローム解析には尿中有機酸分析が含まれておりますので、施設基準を満たせば、保険請求が可能です(今年度より)。つまり、通常の臨床検査の1つとして行えることになりました。

現在論文を執筆中ですが、ピリドキシン依存症の可能性を全く考えられておらず、当方で血清と髄液を分析したてんかんの方(小学生)で、α-AASAの上昇をみとめた方がおられました。主治医に連絡してビタミンB6を始めていただいたところ、年に何回か発作が群発していたのがゼロになり、他の抗てんかん薬を減らせているそうです。後の解析で、ALDH7A1遺伝子に異常がみつかりました。ご家族は非常に喜ばれたとうかがっております。

ピリドキシン依存症は通常新生児期に発病しますが、発病年齢が遅い事例も報告されており、通常の検査では診断ができません。見逃しを減らすには、ビタミンB6製剤のトライアルを積極的に行うことです。ただ、なかなかそうはいきません。

我々のラボでの分析ではタイミングにもよりますが、通常1-2か月待つことになります。上記の尿中メタボローム解析を1回行えば見つかりますし(検査結果は1週間以内で戻ってくる。ついでに130種類の先天代謝異常症のスクリーニングも行える)、早期発見早期治療の方が発達予後にはよいですので、原因不明のてんかんで検査を行う価値は高いと思います。

ちなみに、我々の施設では尿中有機酸分析の依頼は5年以上前に止めました。メタボローム解析の方がはるかに多くの物質を測れ、診断可能な疾患が多いためです。どちらが効率的かは明らかです。

|

2020/04/18

ビタミンB6依存性てんかんの検査について

ビタミンB6依存性てんかんを疑って検査依頼がくるケースが時々あります。

 

ビタミンB6製剤が効いたから、という話は分かりやすいです。

ALDH7A1欠損症の場合、診断マーカーは、α-AASAピペコリン酸です。これはビタミンB6製剤による治療開始後も異常を示します(尿中ピペコリン酸を除く)ので、いつの検体でも判断可能です。最近、日本疾患メタボローム解析研究所で、新しいマーカーであるオキソピペコリン酸Δ2-P6Cが測れるようになり(正確には、もともと検出できていた異常ピークの正体がこれらの2つの物質であることが判明した)、尿検体でより正確な診断が可能になりました。

PNPO欠損症の場合、診断マーカーは、血中ピリドキサミンです。さらによいのは、血中ピリドキサミン/4-ピリドキシン酸比で、これは治療開始後も異常を示します。ピリドキサミンはまだ我々のラボでは測れませんが、検査会社のビタミンB6測定のピリドキサミン(これは、ピリドキサミンとピリドキサミンリン酸の和)である程度代用可能と思われます。

PLPBP欠損症の場合、髄液中ピリドキサールリン酸低下の報告しかありません。これは治療を開始すると上昇しますので、治療前検体でないと判断できません。PLPBPの定量キットは市販されていますが、タンパク量を測っているだけで、機能(活性)を測れませんので、点変異による機能喪失の判断は困難です。

高プロリン血症II型の場合、診断マーカーは、P5Cプロリンです。プロリンは通常診療でのアミノ酸分析で測れます。P5Cは、日本疾患メタボローム解析研究所で測定可能です。治療の有無にかかわらず判断できます。

つまり、ビタミンB6製剤が効いた場合、PLPBP欠損症以外については、いつの時点で代謝マーカーを測っても判断可能です。PLPBP欠損症では治療前髄液検体があれば診断の参考になりますが、ピリドキサールリン酸低値のみでは診断に特異的ではありません。現実的には、上記の代謝マーカーをまず測り、いずれも否定的であればPLPBP遺伝子解析を行うといった手順になることでしょう。もちろん、上記の疾患の遺伝子パネルを先に行い、見つかった遺伝子異常の機能解析の一環として代謝マーカーを測定するという順番もあることでしょう。

 

もう1つの「疑って」は、新生児期・乳児期の原因不明のてんかんなので、鑑別診断の1つとしての意味合いです。

この場合、いただいたご依頼のほとんどが「ハズレ」です。希少疾患ですから。

とは言っても分析依頼を断ることはありません。症状が非特異的なので、ある程度スクリーニングが必要だからです。

ただ、依頼をくださる先生方に1つお願いしたいのは、ビタミンB6依存性てんかんを鑑別診断の1つとして挙げるのであれば、検体採取後は必ずビタミンB6製剤のトライアルを行っていただいたい、ということです。代謝物質測定にもある程度の時間がかかるため、トライアルはなるべく早く行う必要があります。効果があれば患者の人生が変わる可能性があるのですから。

トライアルは、単発(例えば、静脈注射1回)のみでは不十分です。すぐに効果が得られない場合、充分量を最低1週間は使う必要があります。遅れて反応する方(late responder)がいるからです。

 

私が考えるビタミンB6依存性てんかんの診断手順を以下に書きます。

  1. 原因不明のてんかんでは、ビタミンB6開始前の検体採取・保存をまず行う。
  2. ビタミンB6トライアルを充分に行う(充分量を最低1週間)。
  3. ビタミンB6が有効な場合、ビタミンB6依存性てんかんの代謝マーカーの測定、遺伝子解析を行う。

検体保存の次、ビタミンB6トライアルの前に代謝マーカーのスクリーニング検査をするかどうかは、検査に要するマンパワー、時間、費用について考えて決めることになります。我々のラボではそれなりに時間がかかりますし、ビタミンB6依存性てんかんの原因疾患すべてをひっかけるためには、充分なビタミンB6トライアルが必須と考えております。

|

2020/02/29

ミダゾラム口腔用液の製造販売承認申請が行われました

武田薬品工業のウェブページによりますと、てんかん重積状態の治療薬として、ミダゾラム口腔用液の製造販売承認申請が行われたそうです。

ずっと待ち望んでいた申請です。ここから承認まではまだまだ時間がかかるのではありますが...

てんかん重積状態は神経救急の中でよくみられる病態ですが、病院前治療が重要であるにも関わらず、本邦では有効な薬剤が市販されていませんでした。

抗てんかん薬の坐剤は市販されていますが、溶けるのに時間がかかる。すぐに止めねばならない発作を坐剤が溶けるまで20分、30分とのんびり待っている余裕はありません。実際、ガイドラインでは抗てんかん薬の坐剤がてんかん重積状態に有効であるエビデンスはないと記載されています。そうなんです、ただのおまじないみたいなもんです...

てんかん重積状態は、始まってから時間が経過するほどお薬が効きにくくなります。なので、現場でさっさと治療できるようにすることが重要です。

既に米国等で認可されているミダゾラム口腔用液が承認されれば、日本でのてんかん重積状態の病院前治療は大きく前進するといってよいでしょう。

次にクリアすべきは、現場で誰がこの薬を使ってよいかといった体制整備でしょう。学校でてんかん重積状態を起こした場合、親しか使えないのでは意味がありません(親が学校に着くまで待てというのか?)。学校教諭が使えるようになればとも思いますが、医療行為になるという問題がありますし(坐剤については医療行為としないという通達が出ている)、即効性がある分、呼吸抑制や血圧低下といった副作用がどうなるかという注意は必要でしょう。

学校教諭が難しければ、救急隊員による使用を可能にすれば、その後のバイタル監視や必要に応じての呼吸サポートはできることでしょう。こういった体制整備が行われ、救急車が病院に到着した時点では発作は既に止まっていました、という事態が多くなればよいなと思います。海外では救急搬送そのものが減らせることになっていますが、日本では使用後の医療機関受診はおそらく必須化されると思っています。

|

より以前の記事一覧