多剤療法の罠5
前の話から、ずいぶん時間が経ちました。
だいぶ落ち着いてきたので、少しずつでも更新できればと思っています。
多剤療法にハマる問題についてです。
お薬を足すのは簡単、引くのはとても難しい、ということをよく知っておく必要があります。
- 発作が多く多剤療法の場合、お薬のどれかを減らすという話をする場合、発作が少なめのタイミングになりやすい。
- そうすると、次は発作が増えたという話になりやすい。
- そこで、減らしたお薬を戻さずに踏みとどまりたい。
という話です。心情的には、減らしたお薬を元に戻してみたくなります。実際のところ、何もしなくても発作はまた減ることがわりと多いわけですが。我慢できれば、次に発作が減った時、さらにお薬を減らせることになります。我慢できなければ、お薬を減らすことは難しくなります。
では、逆に、発作が多い時にお薬をどれか減らせるでしょうか?
もしできるなら、次回は発作が(自然経過で)減っていることがわりとあるでしょう。その場合、落ち着いているからお薬は同じで(もしくはもう少し減らす)ということになり、ちょっと楽になるのかも知れません。
ただ、発作が多い時というのは、心情的にどれかお薬を減らすという考え方になかなかなれません。何かちょっとでも増やせる併用薬があるなら、それをおまじない(言い訳ともいう)程度に増やして、減らしたいものを減らすというやり方になるでしょうか。こちらも悪くはないと思いますが、今飲んでいるお薬のどれにも増量の余地がない場合には、行き詰ってしまいます。
2か所、心情的と緑の字で書きましたが、多剤療法の整理には、どこかしたら心情的に乗り越えなければならないプロセスがあるように思います。これは、患者・ご家族も、医師も、そうです。
いくつか、患者・ご家族と話をするようにしています。
- 減らしたいお薬は充分効果がなかった一方で、副作用の原因にはなりうる。
- 減らしてみて、初めて副作用が起こっていたんだなと実感することがある。
- 今後、新しいお薬を試したくなった場合、飲んでいる薬剤数は少ないほどよい。
- 発作が増えても一時的なことがわりとあり、様子見かレスキュー薬だけでしのげる場合がある。
- 発作を減らすのは重要だが、それだけが治療のゴールではない。
処方する医師は、戦略を明瞭にお伝えして、中長期的な目標を告げることができたらと思います。目標があれば、方針がぶれにくいからです。
長年の治療を要するのに、1-2か月程度のことで方針がぶれまくっていたなら、最悪です。
治療の原則として、何かお薬を始める場合、いつ止めるかを考えて始めなければなりません。行き当たりばったりでは、いけません。
薬剤整理の実際の経験として、「発作は増えたが元気になった、眠気がとれた、食欲が出た、笑顔が増えた」、「気づいていなかったけれど、お薬を減らしたら活発になったので、副作用があったんですね」「お薬を飲ませやすくなった」という感想をいただけることはあります。
また、スペクトラムの広い新規(もう新規ではないですが)薬剤を加えたのを契機に、今まで飲んでいたお薬が2-3剤止められた方もいます。
もちろん、うまくいかなかった方も経験はしていますが、少しでも参考になれば、ありがたいです。
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