2018/01/07

α-アミノアジピン酸セミアルデヒド(α-AASA)

2018年になりました。

いきなりですが、α-アミノアジピン酸セミアルデヒド(α-AASA)という物質があります。

アリシン(allysine)とも呼ばれます。にんにくにもアリシン(allicin)という、よく似た名前の物質はあるようですが、たぶん発音が違うんじゃないかなと思います。

α-AASAは、ALDH7A1遺伝子の異常によるビタミンB6依存性てんかんで体内に蓄積する物質です。

日本国内で、α-AASAを測れるラボはありません。

ビタミンB6依存性てんかんにずっと興味を持っていましたから、これを何とか測れるようにしたいと思い、実験をしてきました。メモをみると、2015年1月、つまりちょうど3年前から始めています。

海外からの報告では、α-AASAは質量分析計(LC-MS/MS)を使って測られています。LC-MS/MSを使った場合、液体クロマトグラフィ(LC)である程度の分離が出来ていれば、高い感度と選択性を持つ質量分析計できっちり測れるからです。測定系の開発時間も節約できます。

けれど、自分のラボには質量分析計はありません。とても高価なんです...

というわけで、手持ちにある蛍光検出器を使っての測定を試みました。α-AASAはアミノ酸の一種なので、アミノ酸分析の技術を用いれば測れるはずです。α-AASA自身は蛍光を発しないので、蛍光物質に変換する蛍光誘導体化反応を行います。これは、他のアミノ酸と同じ。

その前に、α-AASAを「作る」必要があります。α-AASAという試薬は市販されていません。そのため、自分で作る必要があります。幸いにも、作成法は論文になっており、そんなに難しくなかったので、自分でも作れました。医者の仕事というよりは、化学実験です。

蛍光検出を行うためには、LCでアミノ酸を分離する必要があります。質量分析計との最大の違いは、どのアミノ酸も同じような蛍光を発するので、本当にきれいに分離しないとα-AASAをきっちり測れません。

40種類弱のアミノ酸混合液と比較しながら、きっちり分離できることをまず確認。ここまではそんなに難しくなかったのですが(時間はかかりましたが)、生体試料で測ると、未知のピークがかぶってきます。これらも出来る限りかぶらないよう、測定条件を最適化する必要があります。なぜなら、α-AASAの濃度はとても低いため、大きなピークが近くにあると見えにくくなるからです。

この最適化に2年以上かかりました。というのも、2-3週間ほどがんばっては息抜き(他の仕事、実験もあるので)、またがんばっては息抜き、というのを何度も何度も繰り返してきたからです。途中で、何度も嫌になりました。

とはいえ、何とかα-AASAを測れるところまでこぎつけることができました。ALDH7A1遺伝子異常のある患者さんの尿、血清、髄液で測りましたが、いずれも異常高値でした。

現在、論文を作成中ですが、3年かけてほぼ完成させた測定系が、ビタミンB6依存性てんかんの患者さんの診断に少しでも役立てばと思います。

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2017/12/05

てんかんの診療連携2

前回の記事で、地域の診療連携システムをうまく機能させるためには、てんかんセンター自体の診療レベルはもちろんのこと、ふだん患者さんを診て下さる一次・二次医療機関の診療レベル全体の底上げが必要です、と書きました。

てんかん診療の知識を広めるには、医師を対象とした講演会だけでは不足と考えています(もちろん、大切ではありますが)。講演を聞くのは、大学等で講義を聞くのと同様で、知識として定着する確率は低いことが分かっています。

学習効果を高めるには、視聴覚教材を用いたり、双方向の講演にしたり、グループで討論したり、といった方法が必要になります。

実践力を高めるには、症例検討会が一番です。個人情報保護に気をつけたうえで、患者の病歴や検査所見を提示し、参加者であーだこーだと議論するのです。

症例検討会は、東北大学てんかん科がTV会議システムを用いて全国規模(海外からの接続もあり)で行っているのが有名です(医療関係者のみが対象)。

これはとても勉強になるのですが、かなり難治な方を対象としていて、てんかん専門医向けの内容です。

なので、岡山県内のてんかん診療初心者~中級者や研修医を対象とした、より基本的な症例検討会をできないかと考えているところです。

例えば、

この患者は、そもそもてんかんなのか?

必要な情報・検査は?

次の一手は何か?

このお薬はどのように使う?

といった感じの内容です。

岡山県内とはいっても、てんかんセンターまで御足労いただくのはなかなかできません。1時間以上かかる地域もありますから。

そこで、東北大学と同じTV会議システムを使う方式を考えており、今月中にテスト会議を開いてみようと思っています。さて、どうなることやら。

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2017/11/24

てんかんの診療連携

ハワイに行った後、自分の魂が日本に戻ってくるまでに時間がかかったのと、学会・講演会が毎週のようにあったのとで、久しぶりの更新です。

私の勤務する病院には、てんかんセンターが作られており、てんかん診療拠点施設にも認定されています。

元々のてんかんセンターは、国の政策の一環として作られたもので、日本には静岡や西新潟を始め、全国に5か所程度あったと思います(私の記憶が正しければ)。

最近のてんかんセンターは、各病院が独自に作っているものです。関連診療科をまとめ、てんかんの患者さんがどの科を受診するべきか迷ったりせず、診療科間の横の連携をスムーズにし、全体としての診療レベルを高めるのが主な目的です。

てんかんセンターの重要な役割として、地域での診療連携の促進があります。

てんかんの患者さんは多い。100人に1人とも言われます。全国で100万人です。

一方、てんかん専門医は全国で500人ほど。1人あたり2000人の患者さんという計算になってしまうと、診療が到底不可能な数です。

実際のところ、地元のてんかん専門医ではない医師がてんかん患者さんを診てくださっていることが多いのです。

持続可能なてんかん診療の体制を作るためには、分業が不可欠です。一次・二次医療機関で診断や治療方針の決定に難がある場合、てんかんセンターを始めとする専門施設で診断を行い治療方針を決め、紹介元の一次・二次医療機関にお返しするという流れです。治療の節目や、専門施設でしか行えない検査の場合には改めてご紹介いただく、そして結果をつけて元の医療機関にお返しする、ということもよくあります。

この患者さんの流れが大切であり、専門施設で全てを抱え込んでしまうと、パンクするのが必然です。

ただ、診療連携システムをうまく機能させるためには、てんかんセンター自体の診療レベルはもちろんのこと、ふだん患者さんを診て下さる一次・二次医療機関の診療レベル全体の底上げが必要です。

これを今後どのようにして行っていくべきか、日々考えているところです。

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2017/10/02

タイムマネージメント

最近よく感じるのが、タイムマネージメントができていないことです。

人に任せられる仕事はお願いすることにしていますが、そうできないことも多い。

どうしても受けないといけない仕事以外は、断ってしまうのも手かなとは思います。そうでないと身が持たない。

自分のやりたい仕事を横に置いてしまうのも嫌ですしね。

偉い先生方では、とてもタイトな時間で動いておられる方もいますが、時間に支配されるような人生は送りたくないです。

そろそろ、本格的に(遅い)夏休みをとりますので、まずは残務処理です。

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2017/09/17

アデロキザール生産中止の影響

今年の3月末をもって、ピリドキサールリン酸(PLP)カルシウム製剤であるアデロキザール散の生産が中止になりました。

そろそろ、在庫切れという話をチラホラ聞くようになりました。

てんかんの治療にも使いますので、重要なお薬です。

代替薬を使う必要があるのですが、PLPの錠剤が発売されていますので、これを必要に応じて粉砕して使うことになります。

10mgから30mg錠までありますが、先発品であるピドキサール錠の場合、30mg錠が重量に対するPLPの含有率が最も高いのでベストだと思います。

このPLP製剤が世界的に使える国は少なく、日本は恵まれているのです。

多くの国で使えるビタミンB6はピリドキシン(PN)塩酸塩です。安定していて安価。市販のサプリにも入っています。

では、PNだけでいいんじゃないの? って思うかも知れません。

PNが効かずにPLPだけが効く病気があるのです。PNPO欠損症という病気です。

また、最近、興味深い論文をみつけました。ビタミンB6のパラドックスという論文です。

The vitamin B6 paradox: Supplementation with high concentrations of pyridoxine leads to decreased vitamin B6 function.
Toxicol In Vitro 2017; 44: 206-212.

この研究によれば、PNは神経毒性があり、PLPを含む他のビタミンB6にはないのです。

もう少し詳しく書くと、神経細胞由来の細胞を培養する際、PNを添加して培養すると、細胞死が誘導されるとのことです。他のビタミンB6では起こりませんでした。また、PNを添加すると、PLPを補酵素とする酵素の活性が下がる。つまり、PNは体内での活性型ビタミンB6であるPLPの作用を邪魔するということです。

昔から、ビタミンB6大量療法による末梢神経障害の報告は数多くあるのですが、不思議とも日本で治療していてそのような経験はありませんでした。日本で使うのは、PNではなくてPLPなので、そのためだったのかも知れません。

この論文の結論にも、PNをPLPに置き換えれば、副作用は予防できるのではないかと記載されています。

というわけで、アデロキザール散がなくなった今、錠剤のPLP製剤は死守していく必要があると思います。やっぱり、害の少ない薬を使いたいですから。

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2017/08/29

ラコサミド

新規抗てんかん薬であるラコサミドの市販から、もうすぐ1年です。

電位依存性ナトリウムチャネルの遅い不活性化を促進するという、従来薬とは異なった作用メカニズムの薬です。

今は処方期間が2週間しばりなのですが、来月から長期処方が可能になります。

まだ出している患者さんは少ないのですが、よい印象の方はおられますので、今後経験を積んでいきたいです。

世界的には注射薬もあるお薬ですので、今後に期待です!

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2017/08/25

教科書執筆

最終更新から気が付くと1か月以上経っていました。

ただいま、脳波の教科書を執筆しておりまして、かなりの時間をそちらに取られていました。しかし、もうじき一段落つきそうです。

余裕が出来たら、脳波クイズも再開する予定です。

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2017/07/17

ALPS研究会

7/15(土)は、ALPS研究会という会に参加してきました。

アルプスって山関係? と思われるかも知れませんが、アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase、ALP)という酵素に関する研究会です。

今回のメイントピックは、低ホスファターゼ症先天的に組織非特異性ALPが欠損する先天性代謝異常症です。

ALPは、自分が研究をしているビタミンB6の末梢血から中枢への輸送に密接に関わっています。その関連で、ビタミンB6依存性てんかんについての講演に参りました。

低ホスファターゼ症は骨がきちんと石灰化しない病気という認識が自分になったのですが、これがビタミンB6との関連でてんかんを起こし得るということで、骨代謝と神経の世界の出会いという何とも不思議な感じです。まぁ、体はどこかで全てつながっているということですね。

今回のALPS研究会、基礎から臨床まで色々な話が聞けてよかったです。低ホスファターゼ症の治療の話、歯の異常についての話、iPS細胞の話、ALP活性を阻害する薬の話、腸管ALP(組織非特異性ALPとは異なるアイソザイム)の機能についての話等、医師の他、薬学や栄養学の先生方も参加されており、研究の横方向への裾野の拡がりを感じました。

異なる分野の研究者の発表を聴講できるのは素晴らしい。自分が今後何をするべきかを考える材料になりましたので、こういった機会を活用していきたいです。

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2017/07/10

脳波クイズ A6

前回のクイズの解答です。レベルは3程度。

A6.

1. 同側耳朶を基準とする基準導出。左半球、右半球、正中部の順になっています。正中部のみ、基準電極は平均耳朶電極になっています。

2. 睡眠時記録。

3. 頭蓋頂鋭波、睡眠紡錘波、K複合波、14Hz陽性棘波。

4. 正常脳波。

解説

モンタージュについては省略します。

睡眠時記録である根拠は、後頭部にα律動(alpha rhythm)がみとめられず、後述するような睡眠に特徴的な波形がみられるからです。

下の図で、赤い三角は頭蓋頂鋭波(vertex sharp transient)、赤い線は睡眠紡錘波(sleep spindle)です。中央の頭蓋頂鋭波に紡錘波がつながった部分は、K複合波(K-complex)と呼んでもよいでしょう。K複合波の最初は、頭蓋頂鋭波のようにやや鋭かったり、もう少し丸みを帯びた高振幅徐波だったりします。これに紡錘波が続くパターンです。

水色の四角の部分に着目します。ここには睡眠紡錘波とよく似た周波数の波形が出ていますが、分布がより広い範囲にわたっており、波形自体もやや鋭いですね。これが、14Hz陽性棘波(14Hz positive burst)です。最近は、positive spikeというよりもburstという言い方が正式なようです。日本語だと陽性群発ですが、あまり使われていないので、ここでは従来の陽性棘波という言い方にしています。

20170710_1

ちょっと待ってよ、陽性と言ったけど、上向きだよ!

と思った方はおられますか?

そのとおりです。上向きだと陰性ですね。脳波の世界では。

モンタージュを変えてみます。

20170710_2

基準導出ですが、基準電極を平均基準電極にしました。

どうですか? 頭の後ろの方で下向き(陽性)になっているでしょう?

陽性棘波は、後側頭部(T5、T6)付近で陽性を示すのが特徴とされています。前頭部では上向きに見えますが。

14Hz positive burstは、正常亜型(normal variants)の1つです。波形は、小文字のmが続いたような波形になります。少し隙間が空いて6Hzになることもあり、6 & 14Hz positive burstと呼びます。

昔は自律神経発作と関連があるとされていましたが、現在は臨床的意義は乏しいとされています。尖っていますので、てんかん発射と間違えないように気を付けましょう。

ムムムッ(mmm)? 陽性棘波!

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2017/07/07

がんのようなてんかん

がん(癌)のようなてんかんってあるのでしょうか?

ちょっとキツめで不適切な例えかも知れませんが、以下を読んでいただくためです(笑)。

てんかんとひとくくりに言っても、原因は千差万別です。

良性てんかん、難治てんかんという言い方がありますが、この2つは治療に関しては別の病気と言ってもよいくらい違います。

難治てんかんの方をずっと診療していると、脳波異常が徐々に拡がってくる方がおられます。最初は狭い領域からのてんかん発射だったのが、徐々に周囲に拡がってくる。そのうちに大脳半球内や反対側の半球にも異常が拡がる。発作の起こる場所も拡がってくる。

こんな感じです。

てんかん原性という過程があります。

正常な脳を、てんかん発作を起こすような病的な脳に変えていく過程です。

脳のどこかに発作をしょっちゅう起こしたり、てんかん発射がひっきりなしに出ている部分があると、そこにつながっている元々は正常な部分も、徐々にてんかん発射を出すようになり、しまいには自分で発作を起こすようになる。

悪い人と付き合っていると悪いことを覚えてしまう。朱に交われば赤くなる、というような現象です。

癌のように、癌細胞が拡がるのとは異なりますが、脳内の異常な回路が徐々に拡がってくる。あまりにも拡がってしまうと、てんかん外科で切除できなくなってしまう。こんなところが、ちょっと癌に似ているように思うのです。

これに伴い、認知能力も徐々に落ちてきたりします。

てんかん外科手術を行う場合、時期を適切に選ぶことは大切です。病気が進んでしまった場合、最悪手術不能になります。また、年齢が大きくなって手術した場合、幼い時期の手術よりも回復には時間がかかります。脳の可塑性が期待できなくなるからです。

難治てんかんは進行しうることを意識しておくことは大切です。

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