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2023/10/30

多剤療法の罠4

薬剤抵抗性てんかんの方で、多剤療法に陥っている方は、たぶん少なくないと思います。

このような方では、ほぼ毎日発作がある、週~月に複数回発作がある、といった方がわりとおられます。

多剤療法に至った経緯としては、例えば以下が挙げられます。

1. 効かないと思ったお薬を減らしたら、発作が増えたので、減らせていない(むしろ増やした)。

2. 新しいお薬を加え、これが効いてから前の薬を減らそうと思っていたら、新しいお薬が効かないので、結果的にお薬の数が増えた。

3. あるお薬を少し試して効かず、別の薬を加えてみる提案があった。

1.は、多剤療法から抜けようとする場合にも問題になります。何かを減らすと発作が増えるのです。

でも、そのまま我慢すると、また落ち着いてくることがわりとあります

何故かといいますと、発作の頻度が高い方でも、それなりのばらつき・波があります。自然の流れで増えたり減ったりするのです。

お薬を減らそうとするタイミングは、心理的に発作が少なめのタイミングになることが多いです。発作が多くて調子悪い時にお薬を減らす気にあまりならないでしょう?

このタイミングであれば、お薬を減らそうと減らさまいと、次に来られる時は発作が増えている可能性があります。自然の波の中で、調子よい時の後にくるのは、調子悪い時ですから

もちろんお薬を減らした影響はないと言えません。リバウンドってありますから。なので、リバウンドが起こりにくいようにゆっくり減らします。

結果的に、調子悪い時をうまくやり過ごせられれば、また調子は上向きになるのです。そうしたら、またお薬を少し減らす。これの繰り返しです。

字で書くのは簡単ですが、発作は患者さんにとってキツイですから、こう単純にはいきません。患者さんは減らしたお薬を増やしたがります。医者も「うーん」と悩みます。一緒に相談しながら方針を決めるわけで、患者さんのご意向は無視できません。

いったいどうしたらよいのか?

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2023/10/22

多剤療法の罠3

発作がなかなかゼロにならない場合、お薬を2つ、または3つ試します。入れ替えながらです。

発作の頻度にもよりますが、1年から1年半ほどで結論を出したい。薬が効くかどうかについてです。

子どもでは、ここをもっと短くすべきという意見もあります。子どもの1年と大人の1年は、重みが違うからです。

効かない場合、より詳しく検査します。以下を確認するためです。

本当にてんかんか?

てんかんの原因は何か?

てんかん発作は脳のどこから起こっているのか?

もちろん、最初の治療を始める段階で、普通レベルの診断と検査は済んでいます。より詳しい検査は、お薬以外の治療ができる方を見つけるのが主な目的です。

ここで、あまりよい方法が出てこない場合、お薬での治療を続けることになります。もちろん、いずれ見直しはしますが。

その後、いろいろお薬を試すわけですが、なんだかんだで、油断するとお薬の数が増えてしまったりします。

そのような状態で紹介、引き継ぎをされる事例はわりとあります。正直、手強いです。

薬剤抵抗性の方でどうやってお薬を減らすか?

お薬整理屋さんの出番ということになります。

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2023/10/21

多剤療法の罠2

まだ難治てんかんと考えていない方で、最初のお薬が効かなかった場合を考えます。

効かないとはどういうことかと言いますと、その方の発作のタイプに適切と考えるお薬を充分量使っても、発作がゼロにならない場合です。

充分量とは、その方の体に合わせて想定される最大量、または副作用が出る一歩手前の量です。つまり、もう増やせない、という量です。

発作が減っても、ゼロになっていなければ、効いていません。てんかんの治療のゴールは、発作ゼロだからです。

発作が減っただけでよしとするのは、薬剤抵抗性が明らかで、発作ゼロの目標をあきらめた場合だけです。

次の薬を始めるにあたり、効かなかったお薬は減らして止める方針にするのがよいです。併用がよいこともありますが、原則、お薬の数は少ない方がよい。効かなかったお薬がゼロになってないと、次の薬が効かなくて次の次を始める時に3剤併用になってしまいます。

この流れで行くと、気がついたら、5つも6つも中途半端な量のお薬を飲んでいることになります。薬はいっぱい、副作用もある、発作は止まっていない。多剤併用の罠に見事ハマりました。

 

次の薬を始める場合の話に戻りますが、最初の薬を減らして発作が増えた時、たぶん色々考えると思います。

前の薬を減らさなければよかったんじゃないか?

新しい薬は効いてないんじゃないか?

気持ちはよく分かります。でも、前のお薬を増やすことはお勧めしません。

私なら、新しい薬を増やし、入れ替えを優先します。前のお薬は減らせるならそうしますが、どうにも無理なら、妥協案として据え置きを勧めます。そして、発作が少しでも落ち着けば、また入れ替えを続けます。

根底には、前の薬は所詮効かなかった薬、という考えがあります。そのようなお薬は、一旦見切りをつけるのです。

 

もちろん、患者さんの調子によっては、多少の対応の違いはあります。あまりにも発作が増えて我慢ならんということなら、しぶしぶ前の薬を一旦一段階増やさざるを得ないこともあるでしょう。でも、これで落ち着いたなら、新しい薬を増やして前の薬はまた減らすのです。隙を見ては、必ず前に進みます。

処方を考える場合、現在の症状はもちろんですが、先のことも見越して考える必要があります。

そして、自分の考えを患者に伝え、患者のご意向や不安を受け止め、よく相談するのが大切です。

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2023/10/20

多剤療法の罠

以前にもよく似たタイトルで記事を書いたような気がします。

日本てんかん学会学術集会に参加しています。

ランチョンセミナーで講演をしたのですが、抗てんかん発作薬は、発作がなかなか止まらない方の場合、簡単に多剤療法になり、身動きが取れなくなってしまいます。

ここには医学的というよりは、心理的罠が潜んでいるのではないかと強く感じています。

この辺りは講演で充分話せなかったので、今後少しずつ、こちらで整理しつつ書いてみようかと思います。

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2023/10/03

学会準備

彼岸を過ぎて、朝晩がだいぶ涼しくなってきました。

暑がりだったのですが、50歳を超えてから、脚の冷えを自覚するようになってきています。特に朝方。

少しずつ、暑さに鈍感になってきている気もします。ちょっと心配。

10月になり、秋の学会シーズンがやってきました。自分が入っている学会が、10月に3つ、11月に1つ開催されますが、時間等の制約のため、2つへの参加が限界です...

今月はてんかん学会が東京で開催され、現地参加の予定です。ランチョンセミナーで話すことになっており、小児科から成人科への移行期医療についての話題です。

この手の内容はそんなに得意ではありません。医学的な話のみならず、さまざまな心理的・社会的・経済的背景などを考えていかねばならないからです。今回はあまりこういった内容に触れるつもりはありません。

一番の狙いは、成人期に持ち越しやすい小児期発病のてんかんについて成人科の先生方に理解していただくことです。もう1つの狙いは、小児科医が前もって準備しておくべきことです。

お互いが努力することで、少しでもスムーズな成人科移行を進められたらと思っています。

また、今月はてんかん月間です。私の職場でも、資料展示などを予定しています。

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