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2017/06/24

脳波クイズ A5 その3

前回の続きです。ちょっと長い説明になりますし、私個人の意見ですので、異論があるかも知れません。

右後ろ(P4、T6、O2)の棘波と左前頭極(Fp1)の棘波に時間差がないということに違和感があるという話でした。

A5.

6. O2とFp1で時間差がないという場合、1つの仮説は2か所からの棘波がたまたま同時に出たということです。でも、これではちょっと面白くありません。

複数の電極で本当に同時に棘波が見える場合、容積伝導による現象が考えられます。これは単純に電場の拡がりということで、ある所で振幅の高い棘波が出たら、近くの電極でもそれを拾うということです。O2で棘波が出れば、隣のP4やT6でも見えるというわけです。でも、Fp1は遠すぎますよね。

発想を少し変えます。Fp1で上向き棘波が出ているように見えるわけですが、このチャネルは、正確にはFp1-A1ですね。上向き棘波が出ていると考えるのはFp1ばかり見ているからで、相棒のA1も忘れちゃいけない。もし、A1から下向き棘波が出ていたら... Fp1-A1では上向き棘波に見えちゃいますね。

この可能性を考える場合、右後頭部に上向き棘波、左側頭部に下向き棘波というパターンがあるのだろうかと考えないといけません。

これは... あります。ダイポールです。

棘波の電位分布を考える場合、その電流源の位置と向きを考えます。ダイポールは日本語で双極子といいますが、プラスとマイナスの電荷が極めて近い位置に存在するものです。小さな磁石のN極とS極のようなもの、超小型の電池とでもいいましょうか。

マイナス側が右後頭部に向き、プラス側が左側頭部に向くようなダイポールを考えれば、話は合いそうな気がします。つまり、左側頭部付近では右後頭部の陰性棘波を裏側から見ている(つまり陽性棘波を拾っている)という仮説です。

7. 正確な分布を確認する方法の1つとしては、基準電極を変えてみるというのがあります。例えば、平均基準電極にしてみます。一番下に、耳朶電極(A1、A2)も表示しています。

20170624_1

T3、A1で陽性(下向き)になっていますね。左前(Fp1、F7)には陰性棘波がみられます。右前(Fp2、F8)にも陰性棘波がみられますが、左前よりほんの少し遅れています。また、左前の棘波は右後頭部(P4、O2)より少し遅れています。多少の遅延時間があるのは、部位間の連絡時間と考えられ、一応納得がいきます。

いやいや、平均基準電極って本当に信用できるの? と思う方がいるかも知れません。そうですね、頭皮上の電極の電位を平均したものだから脳波の影響を多少なりとも受けるでしょ、という突っ込みがあるかも知れません。

そこで、グゥの音も出ないと思われる別の方法を出します。

20170624_2

これも基準電極導出ですが、基準電極がX1になっています。X1ってどこ?

脳波全体を見ると、心電図が混入していますね。X1は心電図を拾っている電極で、肩につけてあるのです。つまり、X1は頭部外の電極というわけで、これだと基準電極が脳波の影響を受ける(コンタミする)可能性はとても低くなります。

これは静岡てんかん・神経医療センターのT先生という、私が脳波ソムリエと呼んでいる方から教わった方法です。初めて聴いたときは、コロンブスの卵でした。

ところで、もう1つ納得できない点はありませんか?

後ろから棘波が出て、何故前から少し遅れて棘波が出るのでしょうか? サイドが違うんですけど。右前の棘波は左前よりも遅れているので、右後ろから右前に行った後に左前に行ったとは思えません。

ここで、右後ろの棘波が本当はどこから出ているのか、と考えてみたいと思います。ダイポールの話をしましたね。ずっと以前に立体角に関する記事を書きました。その記事の下側の図を参照していただきたいのですが、脳表で陽性と陰性の棘波が同時に見える場合、電流源の真上の電極では何も見えないのです。

これを上の脳波に応用すると、一番棘波が見えにくい電極はどれかということになるのですが、それは左後頭部の電極(O1)です。

つまり、左後頭部のどこかに、右後頭部に向けてマイナス面が向き、左側頭部に向けてプラス面が向いたダイポールがあるのではないかということになります。

後頭葉や前頭葉の内側面に電流源がある時は、陰性棘波が反対側から出ているように見えることがあります。Paradoxycal lateralizationという有名な現象です。

本当は、もうちょっと複雑な分布のようで、これだけで充分説明できていないところはあります。

棘波の分布を読む上での考え方をいくつか提示させていただきました。

今回は、思ったよりも複雑な問題になってしまっていましたので、次回からは、もうちょっと分かりやすい問題にしようと思います。

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