« モノアミン類の分析3 | トップページ | 酵素活性測定 »

2015/08/14

ビタミンB6関連

以前に書きましたが、ビタミンB6依存性のてんかんで、ピリドキシン依存性てんかんピリドキサール依存性てんかんというのがあります。

前者はALDH7A1遺伝子、後者はPNPO遺伝子の異常が報告されています。最近は、ピリドキシンに反応するPNPO遺伝子異常の報告などもあり、○○依存性という言い方は正しくなくなってきており、遺伝子名で呼ぶのが好ましいと思います。

ビタミンB6には6種類の形があり、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミンとそれがリン酸化されたものから成ります。体内で補酵素としての活性があるのは、ピリドキサールリン酸(PLP)のみです。

日本の検査会社では、リン酸を外してからピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミンを測定しているため、リン酸化と脱リン酸化されたものを区別できません。補酵素活性を持つPLPが正確に定量できないのは残念です。

20150814

なぜPLPを重視するかというと、中枢神経系の興奮を抑えるGABAの合成にPLPが必要だからです。PLPが欠乏すると、GABAが作られず、脳の興奮を抑えることができずにてんかん発作が起こってしまいます。

例えば、PNPOは他のリン酸化型のビタミンB6からPLPを作る酵素ですが、PNPO遺伝子異常のためにこの酵素が働かなくなるとPLPが欠乏してしまいます。

ALDH7A1異常の場合、全く無関係と思われるアミノ酸のリシンの代謝経路が関係してきます。途中にあるP6Cが増加し、これがPLPにくっついて不活性化してしまうのです。

リン酸のついていないビタミンB6は細胞膜を通して出入りできます。しかし、リン酸化されると(ピリドキシンキナーゼによる)、膜を通過できなくなります。膜を通れるようにするにはリン酸を外す必要がありますが、これにはホスファターゼと呼ばれる酵素が必要です。低ホスファターゼ症という疾患では、ホスファターゼの低下により、ビタミンB6が細胞膜を通過できなくなり、中枢神経系に入っていけないため、てんかん発作が起こります。

このホスファターゼはGPIアンカーと呼ばれる錨で細胞膜につながれています。先天性GPI欠損症という疾患では、この錨がうまく作られないため、ホスファターゼが細胞膜にとどまって働くことができなくなり、低ホスファターゼ症とよく似た理由でてんかん発作が起こります。

これらの疾患のてんかん発作は適切なビタミンB6製剤で治療できる可能性があるため、きっちり診断し、治療効果のモニターをしたいところです。

その一助となるため、私の職場では、ピリドキサールリン酸(PLP)とピリドキサールの両者を分けて測定できるシステムを開発し使っています。

|

« モノアミン類の分析3 | トップページ | 酵素活性測定 »

コメント

初めまして。難治性の症候性てんかんの男児をもつ母です。
3歳で発症し、小学一年生になった今も、薬の調整をしています。

デパケン、イーケプラ、ラミクタール服用中で、一ヶ月前からビタミンB6を 100㎎/日服用し始めました。行動面に改善はみられなかったのですが、(ADHDの要素を持っていて、自閉症スペクトラム障害の疑いがあるが保留との診断を受けています)
強直などの強い発作が半分(月平均20回くらいが8回)に減りました。小さい発作を入れればまだほぼ毎日ですが…

ネット検索をしてもビタミンB6が効く症例で、我が子に合致するものは見つかりませんでした。主治医は事例があまりないとおっしゃっていました。

この一ヶ月で発作が減った実感があるので、200㎎/日に増量になりました。
主治医から体重22㎏でこの量は多いとは聞きましたが、帰って調べてみたらかなり多いことが分かり、副作用がとても心配になりました。

過去に薬疹が出たり、クラリチンで発作が多発したり、食物アレルギーがあったりと、何かと反応が出やすいタイプのようです。

我が子と似た症例があるのか、ビタミンをこのように投与するものなのか、他に調べたらよい検査があるのかなど教えて頂けたら嬉しいです。

投稿: のの | 2015/09/26 21:59

ののさん、こんにちは。

ビタミンB6に反応する(発作が減る、止まる)方は、少数ながらおられます。

ビタミンB6欠乏症の治療やサプリとして使う場合の量に比べ、このような場合の治療には大量が必要です。

たとえば、赤ちゃんでみられる点頭てんかんでは、通常300-500mg/日(30-50mg/kg/日)を使います。ののさんの息子さんは22kgですから、点頭てんかんの赤ちゃんに比べればかなり少ない量だと言えます。

ビタミンB6大量療法の副作用としては、海外では末梢神経障害の報告があります。私たちは経験がありませんが、自覚症状(たとえば、軽いしびれ感)を訴えられない方も多いので、気づいていない可能性はあります。自分たちの経験では嘔吐と肝機能障害(血液検査で見つかる)が時にみられる程度です。

検査は稀な病気(例えば日本で数人以下の病気など)まで考えれば、正直きりがありません。症状、検査で分かること、検査費用などのバランスを考えて主治医の先生はどういう検査を行うべきか考えておられると思いますよ。

投稿: あきちゃん | 2015/09/27 09:58

こんばんは。
早々のご返事、誠にありがとうございます。

丁寧なご回答に 飲ませる勇気が持てました。

土曜の夜で、主治医に相談も出来ず、不安でネットで検索していたときにあきちゃん先生のサイトに出会いました。
まさか、専門の、しかも研究にも熱心な先生にお返事を頂けるなんて。
本当に嬉しかったです。ありがとうございました。

投稿: のの | 2015/09/27 21:50

初めまして、7歳女の子23キロ、難治性てんかんを持つ母親です。

母親判断でVB6欠乏ではないかと投薬し
発作は減った様に思いましたが
400mgまで増量しましたが
発作が消えることが無かったので中止しました。
その後また発作が増加…。
といった経緯なのですが
VB6欠乏の場合、血液検査でも分かりますか?

投稿: hopepe | 2017/03/13 11:07

hopepeさん

VB6「欠乏」は、血液検査でVB6を測れば分かります。ただし、健康保険は効きません。自費診療です。

通常の食餌をとっていれば、VB6欠乏はふつう起こりません。

自己判断でビタミン大量をお子様に使うことは危険であり、止めていただきたいです。どんなビタミンであっても、量を間違えれば毒です。運が悪ければ重篤な副作用をきたします。

必ず主治医の先生によく相談し、適切な用量を処方してもらうようにしてください。

投稿: あきちゃん | 2017/03/13 22:50

お忙しいところ
早速のご返信ありがとうございます!
申し訳ありません、文が欠落しておりました。

発病する前から口角炎などの背景があったため…
母親判断ではありますが
主治医にVB6の提案をしたところ快諾してくださり主治医のもと処方、投薬をおこなっておりました。発作が減った印象ではありましたが劇的には効いていないことから1週間で投薬中止に至りましたが少し心残りです。

VB6欠乏が血液検査で分かればVB6依存性てんかんやGPI欠損症である確率が上がるのでしょうか?
何度もご質問申し訳ありません。

投稿: hopepe | 2017/03/14 11:30

hopepeさん

「VB6欠乏」とは、栄養性の欠乏(食餌からの摂取が充分でない)とう意味を指しての私の回答でした。

VB6依存性てんかんでは色々な発病メカニズムがあり、血液検査ではVB6が欠乏していない(値が低くない)場合もあります。例えば、先天性GPI欠損症は、脳内へのVB6輸送の問題ではないかと考えられており、血液中のVB6欠乏はありません。

なので、VB6の血液検査だけでVB6依存性てんかんや先天性GPI欠損症を見つけ出すことは難しいです。

投稿: あきちゃん | 2017/03/15 00:01

あきちゃん先生、こんにちは。

先生のビタミンB6、HPP、ピリドキシン依存性てんかん記事を全部ではないですが読みました。
そこで疑問ですが、HPPにおける”けいれん”とはビリドキシン依存性てんかん、と同等または同一という理解で良いのでしょうか?であれば、けいれん症状があるHPP患者の脳波測定(脳波への過信の記事も読みました)に意味はあるという理解でいいですか?

先生の記事は他で説明されてないような機序を図解でわかりやく書かれていて興味深く参考になります。
情報の共有ありがとうございます。
可能であればBlog内(過去)記事のキーワード検索があれば助かりますので検討お願いします。

投稿: 南国人 | 2020/05/19 17:29

南国人さん

「ピリドキシン依存性てんかん」は、通常ALDH7A1遺伝子の異常で起こる疾患を意味します。なので、HPP(ALPL遺伝子の異常)とは別物です。単にピリドキシンが効くから「ピリドキシン依存性てんかん」と呼んでいるのではありません。この名前には歴史的な意味合いがあるのだと思っておいてください。

けいれん(てんかん発作)を疑わせる症状のある方で脳波をとることには意義があります。

過去記事の検索機能ですが、ココログの設定画面では見つけられませんでした(探し方が悪いのかも知れません)。

投稿: あきちゃん | 2020/05/19 22:33

返信ありがとうございます。

ALDH7A1遺伝子の記事も読んでましたが、別記事の”ビタミンB6依存性てんかんの診断で大切なこと”に書かれているビタミンB6依存性てんかんを示す疾患の同一カッコ内にALDH7A1遺伝子とHPP他も括られていいたので先生がおっしゃるとおりピリドキシン製剤で効果があるけいれん(てんかん発作)はビタミンB6依存てんかん(=ピリドキシン依存てんかん)にHPPは含む、と理解してました。
上記から”低ホスファターゼ症におけるPLP測定”の記事でビタミンB6依存性てんかんとHPPのこと、”ALPS研究会での講演”の記事を見てHPPにピリドキシン依存性てんかんを勝手に=ではないが≒となんらかの関連があると考えていました。
これは考えてみるとALPS研究会≠HPPではないのは当たり前で、包括している研究会ということですね。

特に専門分野では用語や背景がわからないと文脈を間違ったほうに理解してしまうことがあるな、と再認識しました。
コメントで確認して良かったです、より病気理解が進みました。

検索の件、お手数かけました、過去ログ読みます。

別記事論文の件、HPPの会より掲載している学術書がわかりました、ありがとうございます。

投稿: 南国人 | 2020/05/20 12:38

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« モノアミン類の分析3 | トップページ | 酵素活性測定 »