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2014/07/26

大田原症候群と遺伝子

てんかん症候群という言葉があります。

てんかんとは単一の疾患ではありません。人によって症状も原因も異なります。

てんかん発作、脳波異常、それに合併する他の症状、発症年齢などに注目すると、ある程度の大まかなグループができます。それらの中でも、比較的際立った特徴を示すグループをてんかん症候群(Epilepsy syndrome)と呼びます。

大田原症候群は、岡山大学小児神経科の大田原俊輔名誉教授が見つけ出したてんかん症候群です。当初は、サプレッション・バーストを伴う早期乳児てんかん性脳症(Early infantile epileptic encephalopathy with suppression-burst)という名前で、EIEEと略されていました。

新しい国際分類(案)では、お名前を冠したOhtahara syndromeに名称の変更がなされました。

トロントに留学したときに実感しましたが、大田原先生のお名前を知らない小児神経科医はいませんでした。あまりにも有名なので、あまりもの凄さに正直びっくりしました。

てんかん症候群は、上記の如く、古典的には、てんかん発作のタイプ(発作型)、脳波異常の特徴、発症年齢、その他の症状、治療への反応性などを総合して診断されます。

例えば、大田原症候群では、

主に新生児期・早期乳児期に発症
発作型は、てんかん性スパズムが主体で、焦点性発作を合併しうる
脳波は、覚醒時と睡眠時にサプレッション・バースト
一般的に、治療が効きにくい
発達予後は不良

という感じです。

ここに、最近は遺伝子が入ってきています。遺伝子が分かってすっきりすればよいのですが、色々と混乱しています。大田原症候群でも新しい遺伝子が見つかってきています。これはこれでよいことなのですが、問題点も感じます。

例えば、

大田原症候群の診断がいい加減
遺伝子が優先か、症状が優先か
EIEEという名称の問題

などです。

大田原症候群の患者の遺伝子を調べた、と書いてあっても、記載をみて診断が正しいと思える例は、そう多くありません。超有名雑誌に載っていたとしてもです。専門分野については素晴らしいですが、それ以外に関する内容はお粗末だということはあります。

一番多い例は、新生児期発症のてんかんで、「強直」発作があり、脳波でサプレッション・バーストをみとめたというものです。こういう記載は、遺伝子関連の論文のみならず、海外の大田原症候群に関する研究や総説でもよく見受けられます。

確かに、大田原先生の元々の記載にも強直発作はありますが、あくまで主たる発作型はてんかん性スパズムです。一方、強直症状を示す焦点性発作は、新生児期にサプレッション・バーストを来たすてんかんではわりとみられます。全般発作としての強直発作と、強直症状を示す焦点性発作の区別をしていない論文は多いです(真面目に症状を観察したり、発作時脳波をとったりしていないのでしょう)。

大田原症候群という報告で、「強直」発作のみをみとめ、てんかん性スパズムの明確な記載が成されていないものは、私は「大田原症候群というものを分かっていないいい加減なもの」とみなすことにしています。

遺伝子が分かるようになったのだから、てんかん性スパズムがあろうがなかろうが遺伝子が同じならいいんじゃないの? という突っ込みが来そうです。しかし、私は、てんかんの原因である遺伝子と、表現型であるてんかん症候群は、区別して考えるべきであると思います。

遺伝子と表現型は必ずしも一致しません。同じ遺伝子で違う表現型になったり、同じ表現型でも遺伝子が異なることがあります。また、表現型は、患者さんの症状をしっかりと診て分析して記載するものであり、医療の根本です。遺伝子で新たに分かることが多いですが(非典型例が見つかるなど)、表現型による診断がおろそかになってしまっては困ります。検査結果ばかりを見て、患者さんを充分診ないようではよろしくありません。

もちろん、遺伝子で全てが分かり、治療法も決まってしまう時代が来てくれれば、このような議論は無意味になるかも知れません。私のような者は、きっと役目を終えることでしょう。

最後に、EIEEという名称ですが、遺伝の領域では、EIEE1からEIEE20くらいまでの表現型(それぞれに1つの遺伝子が対応する)が報告されています。大田原症候群と同じEIEEの名前ですがが、これらは全く別物です。混乱を招きますので、大田原症候群をEIEEとは今後は呼ばない方がよいです。

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