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2012/08/16

熱性けいれんで脳波?

以前にてんかん診療における脳波の意義について書きました。今回は、熱性けいれんでの脳波について書きます。

熱性けいれんは、日本人の5-10%にみられる、わりとありふれた病気です。

熱性けいれんの発作回数が多いので脳波をお願いします」という依頼をよく受けます。自分の外来に来た時点で、既に脳波がとられていることすらあります。

結論から言いますと、原則的に熱性けいれんでは脳波は不要です

理由は、脳波では何も分からないからです。

今後も熱性けいれんを繰り返すのか? てんかんになるのか? 抗てんかん薬を飲むべきか? という疑問は確かにあると思います。でも、脳波はそれに答えてくれません。

脳波にてんかん発射があっても、てんかん発症の予測にはたいして役立ちません。熱性けいれんを繰り返すかどうかの予測も無理です。正常な子どもでも数%にてんかん発射はみられます。てんかん発射のある子どもとない子どもを多数集めてきて何年も経過をみたら、てんかん発射のある子どもの方がてんかん発作を起こす確率は多少高いかも知れません。でも、目の前の患者1人1人に対してどうであるかを告げることはできません。

脳波にてんかん発射があったら、てんかんと診断するのか? そんなこともありません。てんかんというためには、誘因のない発作が起こっていることが必要です。てんかんの診断は臨床的に行います。脳波は参考にするだけであり、脳波でてんかんの診断を行うのではありません。発熱時のけいれんのみで、てんかんと診断したりはしません。あくまで熱性けいれんです。

熱性けいれんで抗てんかん薬を使うのか? 使う理由があるとすれば、保護者が熱性けいれんの再発予防を強く希望しており、かつ発熱時の抗てんかん薬の頓用(坐薬が多い)での予防が困難な場合くらいでしょうか。脳波異常があるからとか、てんかんの発症予防のため、などという話はちょっと筋が通りません。そもそも、抗てんかん薬にてんかんの発症を予防する効果は証明されていませんので。これは、先日の記事にも書いたとおりです。

一方、脳波で異常を見つけてしまった場合、対処に悩みます。異常があるとしても、熱性けいれんだからということで完全に終わりにするのか、異常を見つけてしまった以上は定期的に脳波をとるのか? 異常があれば、そうだと保護者にお話しせざるを得ません。もちろん、少なからずショックを受けられます。こういうことを経験するたびに、「あぁ、無用な心配をかけさせてるなぁ」と思ってしまいます。

欧米での考え方に、「治療方針に影響を及ぼさない検査は行わない」というのがあります。熱性けいれんの治療方針を脳波で決めたりはしません。この考え方に基づけば、そもそも脳波検査を行うことが不要ということになります。

というわけで、巷で思われているほど、熱性けいれんで脳波をとる意義はありません。僕は、こういう考え方になる原因として、脳波への過信、過度の期待があると思います。どんな検査にも限界はあるものです。それを理解したうえで検査をすることが大切です。

ここに書いたことは、あくまで原則論です。微妙な事例の場合の判断は、専門医でも意見の不一致をみることはありますので、念のため。

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コメント

ご無沙汰してます。
あきちゃん先生の意見に全面同意します。
熱性けいれん〇回目だから脳波、重積だったから脳波、家族が心配しているから脳波・・・こういう紹介患者さんが後を絶ちません。
必要ないと思っても、紹介された以上は断れませんし・・悩ましいところです。
ダイアップの有効性についても、私はやや懐疑的ですが、使わないと「いけない」ような空気があります。
このように慣例的に行われている医療行為はすでに日本の「文化」みたいになっていて、変えるのが難しいと感じています。

投稿: 犬塚 幹 | 2012/08/28 18:47

犬塚先生

ご無沙汰しています。コメントありがとうございます。

検査で分かることと分からないことをよく理解する。何のためにその検査を行うのかよく考える。

他人に尋ねられたときに、自分でその理由をきっちり答えられるのか、ですね。

自分の中でもまだまだ未解決な部分は多く、何気なく今までやってきたことには疑問を一度はもってみるべきかなぁと思っています。

投稿: あきちゃん | 2012/08/28 21:12

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