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2012/06/18

連続脳波2

前回は、連続脳波(CEEG)がどういったものかについて書きました。

これが日本で実際にどのように運用されているのか、僕はあまり知りません。

昨年の臨床神経生理学会ではアイオワ大学の先生が教育講演でCEEGの話をされましたし、僕自身もサテライトシンポジウムに招かれてCEEGの話をしましたので、興味を持っておられる方々はおられると思います。

脳波でしか診断できない非けいれん性発作(特に重積状態)をできるだけ早く見つけ出し治療するためのCEEGですが、それを現実的に運用していくためには、大きな関門がいくつも待ち構えています。その関門と、トロントではこれらがどのように対処されていたのかを以下に書きます。

1. 非けいれん性発作の診断と判読医のマンパワー
脳波で診断すると書きましたが、脳波を読める人がいなければ診断不可能です。一般の医療機関で脳波を読める医師、特に発作時脳波を読める医師はほとんどいません。仮にいたとしても、その人がずっと脳波を読み続けることはマンパワー的に無理です。
トロント:脳波専門医資格を有するスタッフ7-8名と、てんかん(脳波)専門フェロー4-5名。ちなみに、それ以外の神経科スタッフ、レジデント、フェローを合わせると合計25人くらいは小児神経科医がいます。

2. 脳波技術師のマンパワー
重症患者は時を選ばずやってきます。CEEGを速やかに始めるためには、脳波技術師も24時間対応のオンコール体制を築く必要があります。
トロント:専任の脳波技術師が6-7名

3. ペーパーレスビデオ脳波
CEEGは何日にもわたる場合があります。トロントでは1か月以上の特殊事例もありました。従来の紙による脳波ではこのような記録は無理です。デジタル脳波計によるペーパーレスシステムが必須です。また、発作らしき症状を記録したり、ICUでの処置等によるノイズをチェックするため、ビデオ同時記録が欠かせません。
トロント:CEEG専用ポータブルビデオ脳波計が4台

4. 遠隔でのオンラインによる脳波判読
CEEGをベッドサイド以外でも読める方が圧倒的に便利です。ベッドサイドで脳波計の前に座って脳波を読んでいると、患者さんの処置の邪魔になったり等で、集中して読めないのです。また、移動の手間もあります。CEEGは判読にわりとマンパワーを要するので、時間がなるべくかからない方が、システムを維持するのによいのです。このためには、脳波専用の高速ネットワークを用意する必要があります。脳波データは膨大なので、通常の電子カルテ用ネットワークと組み合わせると、あっという間にパンクします。
トロント:脳波専用院内LANあり。また、院外からもインターネットを通しての脳波判読が可能(休暇中に日本に一時帰国して試したところ、日本からでも読めました)

5. 膨大な脳波データ
連続記録ですから、毎日24時間のデータがたまっていきます。一画面20秒表示にして読んだ場合、毎日4320ページ分を読まなければなりません。判読医の負担は大きいです。
トロント:高速ネットワークでページめくりを早く行えるようにする。マンパワーの確保で一人一人の負担を減らす。

6. 脳波の連続記録 ≠ 脳波の連続判読
脳波は連続記録しますが、判読は連続的ではありません。判読医が脳波計の画面の前にずっといることはできないので、判読はどうしても間欠的になります。この場合の問題は、発作が起こってもすぐには見つけられない可能性があることです。かといって、ベッドサイドの看護師等に脳波を代わりに読んでいただくわけにもいきません。判読の間隔を縮めれば縮めるほど、発作が起こってから見つけるまでのタイムラグは短くなりますが、判読医の負担はもちろん増します。どこかで折り合いをつけるしかありません。
トロント:定期の判読は朝と夕の1日2回のみ。ただし、発作が多い事例では、適宜判読間隔を縮める(重積状態の場合は、もちろんほぼ付きっ切り)。

日本よりもマンパワーが圧倒的に高く設備もそろっているトロント小児病院ですら、このように脳波の連続判読からはほど遠い状態です。日本では人的資源と医療設備によっぽど恵まれていない限り、このようなシステムの構築は難しいと思います。

非けいれん性発作を早期発見し治療することで、最終的な転帰(後遺症の程度など)がどこまで改善するかはまだ分かっておらず、研究が進められています。もしCEEGが成績改善に有用だという研究が出れば、CEEGの需要は増すことと思いますので、対応策を考えていく必要があります。

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