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2012/01/08

脳波検査における睡眠導入剤 (Sedatives for EEG)

てんかんの診断に役立つ脳波検査ですが、できるだけ覚醒時~入眠時~睡眠時~刺激して覚醒、といった順番で記録できるとよいです。

睡眠時記録が必要なのは、睡眠時に脳波異常が増強されやすいためで、睡眠時にのみ異常の見られる方もおられます。入眠時の記録は特に大切です。

ただ、どうしても眠れない方はおられます。そういう際に睡眠導入剤を使う場合があり、トリクロリール、抱水クロラール、ラボナ等が使われます。僕もカナダに行く前は、眠れなかったらトリクロリールという感じで、ほぼ機械的にトリクロリールを使っていました。ただ、カナダに勉強に行ってから、これに少し疑問を持ち始めています。

カナダでは、鎮静に抱水クロラール内服、またはラボナール筋注が使われていました。睡眠導入ではなく、麻酔に近い扱いでした。抱水クロラールの使用量は日本のほぼ倍量です。必ず鎮静専門看護師がつき、心拍数、酸素飽和度をモニターしながら、麻酔記録をつけていました。麻酔に準じた扱いですので、鎮静の6-8時間前から固形物摂取は禁止、2時間前からは水分も一切禁止です。これを守らないと、検査はキャンセルされてしまいました。

カナダで睡眠時脳波をとりたい場合、まずは通常の脳波をとります。これで眠れなくても、この検査は約30分で終了です。睡眠時記録が欲しければ、次は断眠脳波で、前夜の睡眠時間を2-3時間にしてきてもらいます(例えば午前2時に起床、年齢により調整)。きっちり断眠すれば、かなりの確率で患者さんは検査中に眠ります。さらに断眠により脳波異常が出やすくなりますので、異常をより鋭敏に見つけられるようになります。断眠でも睡眠時記録が得られなかった場合、次回は鎮静をかけるかあきらめるかになります。

国も医療システムも違いますから、カナダのやり方がすべて正しいとは言いません。日本で使っているお薬の量はカナダに比べて少ないので、カナダみたいに徹底的にしなくてもと考えられる方も多いと思います。一方、お薬を使う以上、きっちりと安全対策をして寝かせるべきという方もおられると思います。

どちらが正しいか答えるのは難しいわけですが、こういう異なるやり方を見てまず思ったのは、患者さんに睡眠不足で検査に来てもらうのを一度も試しもせず、いきなり睡眠導入剤を使うべきなのか、ということです。これは、自分の過去のやり方に対する疑問でもあります。

お薬は、よく注意して使えばそんなに危険ではないと思いますが、100%安全ではありません。眠気やふらつきが残る場合は時に目にします。また、脳波に影響を及ぼす可能性もあり、軽微な異常がお薬で隠され脳波異常の過小評価や見逃しが起こる可能性は否定できません。

一方、断眠する場合、特に小児患者さんの場合は、患者さん本人のみならず保護者の方にも負担になります(付き合わないといけないので)。睡眠不足の保護者が車を運転はできませんし、別の方が運転して来られても道中で子供が眠ってしまいでもしたら、努力が水の泡です。

お薬を使わずにすめばそれに越したことはないのですが、断眠する労力は大きいものがあります。まずは睡眠時間を2-3時間程度削って来ていただくくらいが、外来での現実的な選択肢なのかも知れませんが、まだ自分の中できっちりした答えは出ていません。

ちなみに、検査室で音楽を聞かせたり、検査の最初に過呼吸賦活を行ったりすれば、睡眠時記録が得られる確率が高くなるという論文が出ているようです。かつて、トロントのG先生が、モーツァルトがよいと言っていたのを思い出しました。

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コメント

脳波への影響など、私が知りたかったことを詳しく書いていただき、感謝します。
親御さんが医師に相談してくだされば良いのですが、遠慮?があるようです。
また、睡眠導入剤を使用して睡眠で電極装着する方がお子さんと親御さんの負担が少ないという医師や技師もいますので、迷いがありました。
どうも、ありがとうございました。

投稿: 臨床検査技師 | 2012/01/09 00:20

トリクロリールの副作用の問題は、時に親御さんから聞きます。親御さんが話してくれない限り医師は知る由もありませんので、話してくださった方がよいです。

睡眠導入剤で寝かせてから電極を装着するのは簡単ですが、私は反対の立場です。大切な入眠時記録がとれませんし、覚醒時記録もないことがあります。お薬の影響や完全記録でないことにより、脳波の十分な評価ができないということであれば、いったい何のための検査なのでしょうか?

現在私が勤務している施設、過去に勤務していた大学病院、トロント小児病院のいずれにおいても、電極装着は原則的に覚醒状態で行っています。不安の強い患者さんの場合、音楽をかけたり、DVDを見せたりしながら装着するといった工夫を技師さんはしておられます。

お薬で寝かせて装着するのは、覚醒状態でどうしても電極の装着ができない患者さんだけです。この場合、かなりの情報が失われることを勘案しても、それでも有益だからという判断があります。「負担を減らすために」というのは、悪く言えば「楽だから」ということですが、そのためにお薬を使うというのは、理由としてどうかと思います。

投稿: あきちゃん | 2012/01/09 10:50

覚醒で電極装着することと自然睡眠の大切さをわかりやすく御教示くださり、ありがとうございました。
異動した職場では、覚醒で電極装着できそうなお子さんも、前任者は「覚醒状態でどうしても電極の装着ができない患者さん」ということで、親御さんも睡眠導入剤を使用するのはしかたがない、前任者とおなじ方法でやって欲しいと希望されましたので、せめて、飲みやすく目覚めの良い睡眠導入剤を使用できないものかとお聞きした次第です。
「睡眠導入剤で寝かせてから電極を装着しても、ちゃんと検査ができているから、覚醒で電極装着して自然睡眠させようと思わない。」という他施設の技師もいましたので、先生のコメントはとても心強いです。
帰省中とのこと、恐縮です。ありがとうございました。

投稿: 臨床検査技師 | 2012/01/10 23:50

目覚めのよいお薬について、十分お返事していませんでした。

寝かせるのにどうしてもお薬を使わないといけない状況であれば、トリクロリールよりはラボナの方が目覚めはよいと聞いています(自分は処方したことがありません)。

このあたりに関しては、国立精神・神経センターの小児神経科診断・治療マニュアル(診断と治療社)に詳しい説明がありますので、ご参照ください。

覚醒時記録が大切な例ですが、小児欠神てんかんを疑う患者さんの場合、睡眠時脳波だけでは正確な診断はできません。過呼吸賦活を行って定型欠神発作を確認する必要があります。

投稿: あきちゃん | 2012/01/11 12:23

お薬の件と本のご紹介をありがとうございました。
過呼吸賦活を行って定型欠神発作のような波形の変化がなく意識消失したケースを2例経験しました。
覚醒で電極装着して自然睡眠できるよう工夫することが無駄ではないとわかり、とても嬉しいです。
睡眠導入剤については、折を見て、職場の医師に相談してみたいと思います。
ありがとうございました。

投稿: 臨床検査技師 | 2012/01/12 22:17

あきちゃん先生、いつも興味深く拝読させてもらっています。以前小児神経の教科書について相談させてもらったものです。
実は、脳波やMRIの睡眠導入で最近悩んでいます。ADHDや自閉症の患者さんがたまたま重なり、検査が失敗に終わっています。国立精神・神経センターの小児神経科診断・治療マニュアル(診断と治療社)を読んだり、前日の睡眠時間を短くしてもらって来院してもらっていますが、まったく眠れない子や眠ることができても、音に過敏で持続しないですぐに起きてしまったり・・・
ぼくの病院では最終手段はケタラール1~2mg/kgなどを使用すると、教えられましたがそれでも寝付かない子がいるんです。
呼吸抑制や気道分泌が多くなるようで使うのもドキドキしながら使っているんですよね

投稿: myuuchan | 2012/01/31 19:20

myuuchanさん、こんにちは。

睡眠障害を合併した方は、確かに難しいです。僕も正直、どうしたらいいか悩みます。

今の施設では、電極をはがしてしまわない方の場合、終夜脳波にしてしまいます。トロント小児病院もそうでした。そうすれば、どこかで眠るでしょうから。だけど、これは限られた施設でしかできないですね。

ヒルナミンを検査2時間前に使い、検査30分前にさらにトリクロリールを使うという方法を最近教わりました。まだ、試したことはありませんが。

MRIは、以前働いていた施設ではアイオナール、今はラボナールを使っています。入院の場合のみですが。トロントでは、MRIの鎮静には全く悩みませんでした。麻酔科医が全身麻酔をしてくれますので。

投稿: あきちゃん | 2012/01/31 20:38

色々と教えていただきありがとうございました。
明日MRI頑張ってみます。

あと以前教えていただいたClinical Pediatric Neurologyを最近購入しました。
実は、小児神経の先生がいない病院で小児科をスタートし、神経の患者さんをフォローする機会もないし、脳波を読むこともできません。

神経の専門に今後進むことに不安がありますが、興味はとてもあるので、この本で少しずつ勉強してみます。

また色々と質問させてください。

投稿: myuuchan | 2012/02/01 22:31

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