« 2012年 (The year 2012) | トップページ | てんかんカテゴリー作りました »

2012/01/04

てんかん診療における脳波の意義 (Aim of EEG for epilepsy)

てんかん診療の場では、脳波検査がしばしば行われます。

脳波とは、脳にある多数の神経細胞の電気活動を記録するものです。私たちの脳は、これらの神経細胞が協力して働いていますが、神経細胞同士のコミュニケーションは主に電気信号でなされていますので、脳波は脳の機能を見るために大切な検査です。

てんかん診療で脳波検査を行う理由はいくつかあります。

1. てんかんの診断のため

てんかん患者さんでは、一般にてんかん発射と呼ばれる異常な波が出現します。ある患者さんの脳波でてんかん発射がみられた場合、この方はてんかん発射のない人よりもてんかん発作を起こす可能性が高いと考えます。大切なのは、てんかん発射=てんかんの診断ではないということです。なぜなら、てんかん発作のない方でも、脳波をとった場合に数%にてんかん発射がみられるからです。

てんかんの診断は、発作症状の詳細な聞き取りが一番大切です。てんかんは発作性現象なので、診察室で発作を目撃することは稀です。なので、病状の聞き取りが欠かせません。携帯電話などでのビデオ録画があれば助けになります。症状の聞き取りでてんかんの可能性が高く、脳波でてんかん発射が見られ、かつ症状を説明可能な場合、てんかんの診断をします。逆に、何か気になる点、合致しない点等があった場合、てんかんの診断は必ずしも容易ではありません。この場合は、発作をしている最中のビデオ脳波(発作時ビデオ脳波)という検査で発作を実際に記録することが必要です。

抗てんかん薬での治療は数年にわたるものですから、治療を始めるに当たっては患者さんも医師も十分納得しておく必要があります。後述する一部の特殊なてんかんを除き、抗てんかん薬による治療はてんかん発作に対する対症療法に過ぎず、脳波を治療するのが目的ではありません。言い換えれば、年月が過ぎててんかんが治まってくるまで、お薬で発作が出るのを抑えておこうということです。また、てんかん発作でない現象に抗てんかん薬を使う意味はありません(一部の例外を除く)。なので、治療のターゲットとなるてんかん発作の存在をきちんと確認しておく必要があるわけです。

2. てんかんのタイプの診断のため

てんかんにはいろいろなタイプがあり、治療方法が異なる場合があります。てんかんのタイプに合わないお薬を使った場合、発作が止まらないどころか悪化することさえあり得ます。脳波異常のパターンにより、てんかんの分類を行うことで、それに合わせた治療を行うことができます。また、ある程度の予後(見通し)の予測を行うこともできます。

3. 治療の評価のため

てんかん発作が見た目に分かりやすい、本人がきっちり発作をカウントできる等、発作の回数をきっちり記録できる場合、治療効果は発作回数で判定できますので脳波検査は必要ありません。発作が止まっていればお薬を変更する必要はありませんし、発作が止まっていなければお薬を増やす等の調整を行うことになりますから、脳波検査の結果は治療方針の決定に影響しないわけです。

しかし、発作が軽微である、発作が夜間に起こる等、発作の見落としが起こりやすい状況では脳波が役に立ちます。この際は、発作の起こるパターンに応じて、脳波をとる時間帯や長さを考える必要があります。たとえば、夜間のみの発作の方に対して終夜脳波を行う、といった場合です。こういう方での昼間の短時間脳波には、あまり意義を見出せません。脳波異常の有無は治療方針の決定にあまり参考にならないからです。繰り返しですが、お薬のターゲットは発作であり、脳波異常ではありません

こう書いたものの、一部例外があります。それは、てんかん性脳症と呼ばれる状態です。この場合、てんかん発作のみならず脳波異常そのものが患者さんの発達等に悪影響を与えると考えられていますので、てんかん性脳症の場合は脳波もできるだけ治療します。そのため、治療の評価のために脳波をとる必要が出てくるわけです。

4. 治療を終えるため

お薬を飲んで2-3年発作が抑制されている場合、治療を終える可能性を考える段階になります。この段階で脳波異常が残っている場合と消えている場合では、断薬後の発作の再発リスクが異なるので、脳波をとる意義があります。ただし、脳波異常が残っているからといって決して断薬できないわけではありませんし、実際に断薬してみる場合もあります。これは、てんかんのタイプ等にもよりますので、ケースバイケースになります。

ここに書いたことは、あくまで私が日本とカナダで学んだことに基づいて書いた原則論です。医師による流儀の差はもちろんありますし、これが絶対正しいと言い切れるものではありません(そもそも、医療に絶対正しいものなどない)のでご注意を。

また、上に書いた以外の脳波の特殊な用途もありますが、ここでは割愛します。

最後に、何故こんな半分分かりきったようなことを敢えて書いたかと言いますと、過去の自分が検査の意義をあまり考えずに脳波検査の指示を出していたからです。臨床医たるもの、検査の目的、結果に応じての対応等をいつも考えながら検査をオーダーすべし、という反省を込めて書いてます。

|

« 2012年 (The year 2012) | トップページ | てんかんカテゴリー作りました »

コメント

私は都内の中堅病院に頭痛がひどくていったところ、MRI検査脳波検査を受けて、中国人医師からてんかんと告知されました。(脳波検査でてんかん波がでたため)
これまで一度も気を失ったことがないので、なぜ?と、思い、今度は知人の紹介でお茶の水にある大きな大学病院の脳神経内科に行きました。
そこでもMRI検査、脳波検査(2回)しました。3回の検査と触診、全て異常なしだったにもかかわらず、前の病院でのてんかん波の結果があるので、しばらく病名はつけられませんと言われました。これまでに意識を失ったことがあるかどうかという質問に対し、
運動(筋トレ)をしているときに、頭がぼわーんとなったことがあるぐらいで、一度も意識を失ったことがないと言ったところ、それがてんかん発作です!と、言われました。そして、医師はカルテに運動中に意識が遠のくことがあると書いていました。
それはちょっと違いますので、消してくださいと、何度言っても消してくれませんでした。また、私はその医師に3年前のトレーニング中に床に顔面を強打してから頭痛が始まったので、もしかしたらむちうちなのかもしれないということも話していましたが、触診の結果そういう風には見受けられないし、頭部MRIにはそういう影は見られないということで、頸椎の検査をしてくれませんでした。
後日、他の病院で頸椎を検査した結果、第3、4頸椎骨に少し異常がみられ、神経根を圧迫している可能性が否定できないということでした。
1年間あちこちの病院を転々とし、デパケンという薬をすすめられ、これまでの治療はなんだったのでしょうか。
脳波異常が一度出たことは事実なので、時々このように脳波異常について検索していました。本日はこのページを読み、やはり私はてんかんではないのだと確信いたしました。
自分の体は自分で守れということでしょうか。医師の方々にももっともっと勉強してもらいたいと思います。大きな大学病院での医師の診断と態度には本当にがっかりいたしました。

投稿: 梅本ゆり | 2012/04/30 17:06

梅本さん

いろいろ大変なご経験をされたようですね。

てんかんはわりとありふれた病気(100人に1人弱)であるにもかかわらず、診断は容易ではありません。それを知らない医師はわりと多いと思います。

患者さんの話をよく聞くことが一番大切なのですが、忙しいとき(1人に5-10分程度しかとれないときなど)はついついおろそかになりがちです。なので、専門外来ではできるだけ時間をとってお話を聞きたいなぁと常日頃感じております。

投稿: あきちゃん | 2012/04/30 18:22

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 2012年 (The year 2012) | トップページ | てんかんカテゴリー作りました »