レベチラセタムが日本で発売 (Levetiracetam came to Japan)
新しい抗てんかん薬、レベチラセタムが日本でとうとう発売されました。非常に喜ばしいことです。
というのは、この薬は理想の抗てんかん薬に近い特性を備えているからです。つまり、
幅広い治療スペクトル(多くの発作型に有効)
副作用が少ない
他の薬剤との相互作用が少ない
内服回数が少ない(1日2回、米国では1日1回の徐放剤もある)
代謝をほとんど受けない
経口投与での吸収が良好(ほぼ100%)
種々の製剤がある(米国では通常の錠剤、徐放剤、注射薬が使用可能)
といった優れた特徴があります。また、従来の薬とは全く異なった作用メカニズムを持っていますので、併用による効果の増強が期待できます。
商品名はイーケプラですが、北米での商品名はケプラ(Keppra)。なぜわざわざ名前を変更したのか(しかし似た名前)、全くもって不明です。
カナダで使う場合、最初の薬が効かない場合に2番目に使うことが多いように思います。最初に使わないのは、初回単剤治療薬として認可されていないからです。また、日本ではまだ16歳以上にしか使えないと思いますが、カナダでは小児にも使用できますし、保険適用外使用で赤ちゃんに使う場合もあります。
一番問題になるのは、既に行動異常がある患者さんに使った場合、行動異常が悪化する場合があることです。この場合には、中止せざるを得ません。もう1つの問題は値段が高いことです。
このレベチラセタムの登場で、日本でもようやく第2世代抗てんかん薬の主力がそろったことになります。ゾニサミド(これは日本発)、ガバペンチン、ラモトリジン、トピラメート、レベチラセタムです。
オクスカルバゼピンは現在治験中らしい。ビガバトリンは治験が中止されてしまいましたが、米国でも治験を一旦中止した過去があったにもかかわらず、昨年認可されました。West症候群には非常によく効きますので、ぜひとも治験再開をしてほしいものです。ルフィナマイドとスティリペントールの治験が検討されているという噂があるのはうれしいことです。
ただここで大切なのは、新薬の存在が難治てんかんの見極めを遅らせてはならないということです。現在の欧米での考え方は、適切な薬剤を2剤使用して発作が止まらない患者では外科的治療・ケトン食療法等の別の治療法を考えて検査を行う、です。つまり、新しい薬が何剤も出てきたからといって、これらで1年間余分に引っ張るといったことはよくないということです。
この根拠は、抗てんかん薬が数剤しかなかった時代と、15種類以上もある現在とで、治療薬に反応する患者さんの割合が変わらないからです。具体的に書くと、1剤目(最初の薬)で50%の患者さんの発作が止まり、2剤目で15%、3剤目で5%の方の発作が止まります。このデータは薬が増えても変わっていません。つまり、新薬は副作用の軽減には役立ちますが発作抑制効果の改善は得られないということです。
もちろん、他の治療法を考えて検査を行っている間に3剤目、4剤目を試すのはかまいませんし、これでごく少数の患者さんは発作が止まってよかったという話になるかも知れません。それでも2剤目が失敗した時点で他の治療法を考える理由は、他の治療法がうまく使える患者さんの場合には、その有効率が3剤目、4剤目以降の薬剤よりも高いからです。また、薬剤治療で引っ張ると多剤治療になりやすく、副作用も問題になってきますので、よいことはありません。
決して手術をしろとか違った治療を早くしろとか言っているのではなく、そういった選択肢を機を逃さずに考える必要があるということです。そのための検査を行って結局薬剤による治療を選ばざるを得ない場合もありますが、最初から違った選択肢を考えないのとでは天と地ほどの差があります。具体的に言えば、たとえば、てんかん外科は薬を全て試して効かなかった場合の最後の手段といった考え方は間違いだということです。
| 固定リンク
« MATLABでC言語 (C language with MATLAB) | トップページ | アルゴンキン州立公園に行ってきました (We visited Algonquin Provincial Park) »
コメント
こんばんは。初めてコメント残します。
実は結構前からちょこちょこ覗かせてもらっていました(*´v゚*)ゞ
トロント在住、これから薬剤師になろうとしています。だから、こういう話はすごく興味深いです。
日本とは違って、国家試験は臨床の事ばかり問われるので(日本は結構化学的な部分に重きが置かれてます、今は大分変わってきてますが)教科書を読んでいてもへーーって思う部分が多かったのですが、あきちゃん先生のブログで出てくる話はまた新鮮で、勉強になります。
インターンが始められる時期が大分近づいてきたんですが、想像以上に外国人が同じように肩を並べて働くのは厳しい物ですね。まだその世界に実際に出てないですけど、いろいろと周りから聞くので、いやー自国じゃないってこう言う事かってなんだか凹みます。
それを、バリバリやってらっしゃるのを見て、いつもすごいなって思ってます。
なにせ未だに英語が大の苦手、あっぷあっぷです
(;´д`)トホホ…
これからもまた覗かせてください☆
投稿: snow18 | 2010/09/28 13:15
snow18さん、こんにちは。
最近、食べ物ネタばっかりになっていたので、少しは臨床のことをと思って書き込んでみました。
英語は、僕も格闘の毎日です。なかなか、思ったことをスッと伝えられないんですよね。
これからもよろしくお願いします。
投稿: あきちゃん | 2010/09/28 22:03
今日は、はじめてコメントさせてもらいます。
現在大阪で妻が皮膚科、美容皮膚科、内科等を専門に2院経営しています。特にアトピーでは脱ステロイドを提唱し、漢方治療や栄養療法も取り入れ良い結果を出しています。
実は36歳になる息子(前妻との子)が5年ほど前からてんかんの発作が起きるようになりました。当初は半年に一度程度ですが、かなり激しい全身発作でしたが、それでも治療薬は飲んでいなかったようです・・。
多分引き金になったのは、食事も含め乱れた私生活によるものと思います。単身東京で小さいながら独立し、上場企業のIR資料作成や、パソコン関係の仕事などで徹夜が続き、食事もロクに取っていなかったようです。
その後、徐々に発作の回数が増えてきたので、昨年いっぱいで東京を引き払い、今年1月より私の住む大阪に引き取りました。幸い近所にてんかん専門医があり、家族性ミオクロニーてんかんと診察されました。1回目の検査で血中濃度が足らないからと、当初4錠だったデパケンR200を6錠に増量。当初は当クリニックでパソコンを使った簡単な仕事をしながら治療に専念。1月1日に大きな発作が起きて以来5月ぐらいまで発作が起きなかったのですが、髪の毛が薄くなり10キロ以上も肥ってきたので、専門医に相談。薬をランドセンに変更しました。ところが2週間ほど経過した頃から顔付きも目つきもおかしくなり、よだれを垂らすようになり、見た感じは知恵遅れの知的障害者と見間違うほどでした。
すぐにデパケンに戻しましたが状況は変化しません。
妻にも相談し中毒症状と判断。てんかん治療の経験がある漢方医とも相談し、2か月掛けて徐々に薬を減らし現在は2錠です。3錠ぐらいで顔付きも正常になり言葉も普通になりましたが、うつ状態がひどく2錠にチャレンジした次第です。
発作の頻度は、ランドセンの頃から現在も1、2週間に一度の割で出ます。当然現在は減薬に挑戦しているので、減薬した直後は続くことがあるます。硬直がひどく発作後2,3日は筋肉痛で外出は全く不可能です。
そこでお聞きしたいのですが、1週間弱前からデパケンR200を2錠に減らしているので、今回教えてもらったレベチラセタムとデパケンの複剤を試したいのですが、ご意見が承ればありがたいのですが・・・!
治療は現在、デパケンR200を2錠と漢方煎じ薬、栄養療法、血液クレンジング週1回となっています。
近々、迷走神経刺激療法を受けてみたいと考えています。
やっと日本でも7月から保険適用となりましたから・・。
長々と書き綴り、申し訳なく思っております。
信頼して相談できる先生に出会えないのが現状です。
よろしくお願いします。
投稿: 富田義一 | 2010/12/20 13:24
富田さん
家族性ミオクロニーてんかんは、私は診たことがありませんので、治療についてはたいしたコメントはできません。レベチラセタムは悪くはない選択肢とは思いますが、担当医とよく相談してくださいね。
投稿: あきちゃん | 2010/12/21 23:27
ありがとうございます。
投稿: 富田義一 | 2011/01/21 17:15
こんにちは。はじめまして。
カナダ、イーケプラについて調べていたら、ここにたどり着きました。
私は、ワーホリでトロントに来ました。高校の時にてんかん発作がでて、くすりで抑制している感じです。
今まで8回ぐらい発作を起こしているのですが、私の場合睡眠中か起床時に発作がでている見たいです。2.3年は起きてないので少し安心して、ワーホリに来たのですが、先日発作が起きてしまいとてもショックです。
トロントでは、病院のシステムが日本と違い予約が取りにくくて待っている状態です。そして高額な医療費でびっくりしてます!
トロントでは、イーケプラは処方箋なしで購入できますか?高額ですか?
もし、ご存じなら教えていただけると助かります。よろしくお願いします。
投稿: aki | 2015/04/18 22:36
akiさんへ
発作が再発し、さぞかしご心配だろうと思います。
残念ながら、イーケプラ(カナダでの名前はKeppra)は、処方箋が必要です。価格は、日本でもそうですが、比較的新しい薬ですので高めと思います。もしかしたら後発品(ジェネリック)がカナダにはあるかも知れません。その場合は、少し安くなるかと思います。
あとは、保険が効くかどうかですね。カナダの公的保険では、薬代(と歯科)には保険は効かなかったと思います。民間保険に別途加入する必要がありますが、私がいた当時には、Keppraは対象外の民間保険がありました。
ワーホリですから、日本の保険に入っておられるのでしょうか? いずれにせよ、保険会社への問い合わせが必要かと思います。また、日本の国民健康保険でも、海外での医療に対して給付が受けられたような気がします(ただし、日本で同等の医療を受けた場合の費用以上は出ません)。こちらについても調べてみてください。
投稿: あきちゃん | 2015/04/19 13:16
お返事ありがとうございます。
では、ジェネリックの方も医師に聞いてみます。まだ予約が取れませんが。。。
ワーホリなので海外保険に入っているのですが持病は過去90日間発作がおきてないなら保証されると聞いたのですが、医療サポートの方に薬で抑制している場合は、保証されないかもしれないと言われどうなるのか少し不安です。
まさか、海外に来てまでもなってしまうなんて、、、とゆう感じです。またいつ起こるか、全くわからないので仕事もとりあえずお休みして、ヤングブロアーにある図書館でやたらてんかんについて調べてます。(^_^;)いろいろ調べてるとてんかんは治る。とか治らない。とかいろんな情報が載ってます。てんかんはいつかは治る病気ですか?薬を飲まなくても良くなる日はくるのですか?
投稿: aki | 2015/04/20 00:06
akiさん
すみません。コメントに気付いていませんでした。
てんかんの治りやすさは、タイプによります。詳細は主治医の先生に尋ねてみてください。
まずは、薬をきっちり合わせてもらって発作を止めることが大切ですね。
投稿: あきちゃん | 2015/05/04 20:02