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2009/04/28

カナダ脳波技師資格試験 (Canadian exam for EEG technologists)

土曜日(25日)の午前中は、カナダ脳波技師(EEG technologists)資格試験の試験官をしました。

試験は、筆記試験口頭試問実技試験に分かれており、筆記試験は春と秋の年に2回行われます。口頭試問、実技試験は、春の年1回です。僕は、口頭試問を担当しました。口頭試問にも2種類あり、質問に答えてもらうだけのものと、受験者が持参した脳波を元に討論をするというものがあります。僕は後者の担当でした。実技試験は、電極の装着などです。

試験は、医師と脳波技師が1人ずつペアを組んで行います。脳波技師が主に技術的な評価や質問を行い、医師がより臨床に即した質問をするというわけです。受験者は、脳波の基本的な技術・知識はもちろん、ハードウェア、デジタル信号処理、神経生理学(活動電位、後シナプス電位の発生メカニズム等)、神経学(脳の機能局在、伝導路等)、臨床脳波学(疾患毎の脳波の特徴、脳波所見からの考えられる疾患等)など広い範囲の知識を要求されます。

ガイドラインを読みましたが、自分がカナダ専門医試験を受けたときに勉強した内容とほとんどかぶっていました。

実際の流れですが、まずは、受験者を確認し、持参した脳波2つ(成人1例、小児1例)を受け取ります。必ず異常脳波を持参することになっています。受験者はノートパソコンまたは、紙に印刷した脳波を持ってきます。紙の脳波とは、ペン書き脳波ではなく、デジタル脳波のデータをプリンタで印刷したものです。カナダには、ペン書き脳波は、たぶん事実上存在しません。ここは日本と大きく異なります。

この印刷した脳波は、分厚いバインダーに綴じられてくるのですが、これを読むのはとても面倒くさいんです。ページをめくるのに時間がかかりますから。コンピュータの場合は、だいぶ楽です。この場合、脳波は、記録されたときの条件(Trace as observed)で評価します。コンピュータでは、脳波の表示方法をいくらでも後から変更できるので、実際に技師さんがどういう条件で記録したかを評価する必要があるためです。

さて、2つの脳波を、まず試験官2人で30分かけて評価します。ペアになった脳波技師さんが、技術的な問題点をビシビシ指摘します。記録は、最初にmechanical calibrationから始まり、次いでbiocalibration(これをやっている施設は、日本ではどのくらいあるのでしょう?)があり、ようやく記録が始まります。いきなり、最初のcalibration、biocalibrationからチェックが入っています。さすが、僕とは視点が違います。

評価は、チェックポイントがあるのですが、患者さんの状態を記載するannotationがかなり重視されます。覚醒睡眠、頭の向き、体動、開閉眼、賦活試験の記録などです。Annotationが20秒以上途切れている場所があると、減点対象です。

その他にも、脳波を見やすくするための条件設定の変更も重視されます。波形同士の重なりを減らすための感度の変更の他、リファレンス電極の変更、フィルタやsweep speedの変更などです。また、電極の問題などによるアーチファクトが混入した場合、20秒以内に修正が試みられないと減点対象です。

30分のプレビューが終わったら、受験者に部屋に入ってもらい、自己紹介をし、脳波を一緒に読み進めながら、質問をしていきます。所要時間は45分です。

脳波技師さんは技術的な質問をします。Calibrationは何のために行うのか、biocalibrationとmechanical calibrationの違いは、biocalibraionで、何故Fp1-O2のようなモンタージュを使うのか、双極誘導のメリットは、ここの部分はチャネル同士の重なりが多くて読みにくいがどのように設定を変更すべきか、この波形の極性は、過呼吸賦活の意義や禁忌は、この波形は何か、などなどです。

僕は、技術的な質問もしますが、もう少し臨床的な質問もします。この脳波異常から患者さんはどんな発作を起こす可能性があるか、複雑部分発作の定義は、てんかん症候群としては何が考えられるのか、治療薬としては何を使うか、○○発作はどのような脳波所見を示すのか、この背景脳波の異常はどのような病態を示唆するのか、過呼吸で徐波が増える理由は、photic driving responseは何故後頭部に出るのか、このspikeのダイポールパターンからどのようなてんかん症候群を考えるべきか、などなどです。

最後に、必ず尋ねることになっている質問がいくつかあります。今回は、A/D変換について説明せよ、アナログフィルタとデジタルフィルタの違いについて述べよ、デジタル脳波によるreferential recording(システムリファレンスを用いた脳波記録)について述べよ、システムリファレンスの位置としてどのような部位が用いられるか述べよ、サンプリング周波数とは何か、サンプリング周波数が不十分な場合に何が起こるのか述べよ、サンプリングにおける垂直解像度(vertical resolution)について述べよ、でした。全てデジタル脳波に関する質問で、いかにこれが重視されているかを感じました。

ちなみに、脳波専門医試験でも、技術部門の試験はかなりがデジタル脳波に関する質問であり、前年よりも明らかに増えていましたので(フーリエ解析や、FIR・IIRフィルタの特性の違いの説明など)、この傾向は、今後も続くと予想されます。

45分が済んだら、受験者には一旦退室してもらい、15分かけて評価シートを完成させます。私が担当した受験者は2人でしたが、どちらも成績良好でした。ただ、どちらもデジタル脳波に関する知識と、臨床との関連付けに関する知識については、もう少し勉強が必要だなと感じました。しかし、脳波の記録技術に関しては、問題なしと感じました。

あとで、何故、試験でカバーする範囲がここまで広いのかと同僚の脳波技師さんに尋ねると、「自分たちは、ただ脳波を記録するためだけのtechnicianじゃない。Technologistなんだ。Technologistであるためには、幅広い知識が必要なんだ」とのことでした。

実際、脳波の判読をする際に、彼らが書いたレポートを見るわけですが(脳波技師は、自分の記録した脳波に関しては、technologist's reportを書くことになっている)、なかなか鋭い目を持っていると感じます。なので、自分も彼らに負けるわけにはいかないぞと、がんばってしまうわけです。

今回の試験官の仕事は、とても良い経験になりました。カナダの脳波技師さんが、ふだんどういうことに注意しながら脳波を記録しているかがよく分かったわけですから。

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