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2008/08/07

人手の違い (Difference in manpower)

SickKids(トロント小児病院)で思うのは、マンパワーの豊かさです。でも、これでも不足しているのだと聞きますが、カナダ内では随一のマンパワーではないかと思います。

例えば、小児神経科(というか、ここしか知らない)。神経科医が最低10名、神経生理学者neurophysiologistsが4人、脳波技師が6人、レジデント・フェローが最低14人います。

日本で僕が研修を受けた大学病院は人手に恵まれている方だと思いますが、神経科医が5名、神経生理学者0人、脳波技師3-4名(中央検査部所属)、レジデントが5-6名という感じです。しかし、小児神経科の存在しない施設では、大学病院でもおそらく1-2名しかいないところが大部分ではないかと思います。

おまけに、大学病院ではバイトがあります。バイトは決して行きたくて行っているわけじゃぁありません。要請があるからというのと、大学からだけの給与では不十分だから行くのです。バイトに行かなければ、早く大学の仕事を片付けて帰宅できます。バイトをすれば、それに見合った残業をしなければ仕事が片付かないのです。正直、バイト代よりも時間が貴重に思えたことがしょっちゅうあります。このバイトのおかげで、実際には大学で日中働いているのは5-6割程度の人員になりますから、人手の余裕は減るし、夜にもなかなか帰れないという事態が日常的に発生することになります。

SickKidsの神経科では、病棟のチームが2つあり、blue teamred teamと呼ばれています。それぞれ、神経科スタッフ1名、レジデント・フェロー2名程度、時に医学生が入ります。それぞれのチームが決められた患者さんをフォローします。フォローするのは、神経科病棟の入院患者と、他科からのコンサルト(院内紹介)です。原則、神経科レジデント・フェローがあらかじめ患者さんの診察にうかがい、スタッフと病棟で患者全員について討論を行い、そしてスタッフと一緒に病棟を再び回り、治療方針を決めます。新規のコンサルトは、2つのチームが毎日交互に受けることになっています。夜のオンコールも病棟担当チームで行います。

複雑な患者さんで、より専門性の高いケアが必要な場合は、神経科のチームからてんかんチームepilepsy team、脳卒中チームstroke teamなどへ科内でコンサルトが行われます。てんかんチームへコンサルトが来た場合が、僕たちepilepsy fellowの出番というわけです。てんかんチームは、神経科のてんかんスタッフが率いるわけですが、神経科チームの責任者がてんかんスタッフであれば兼任になることが多いですし、その場合はてんかんチームへのコンサルトはほとんどきません(そのスタッフが方針を決めてしまえるから)。

さて、ここでおやっと思うかも知れませんが、神経科の病棟チームを率いる医師は同時に2人、別のチームを加えてもせいぜい4-5人程度です。また、レジデント・フェローも同時に4人程度です。残りの人たちは何をしているのでしょう?

1つには外来です。スタッフは自分の専門外来があります。ただし、スタッフは自分が病棟チームの責任者の時には外来を全くしなくてかまいません。予定はあらかじめ分かっているので、そのときに患者さんの予約を入れなければ良いのです。こちらの外来は完全予約制であり、予約なしで来ても診察はしてもらえません。全て救急外来に行っていただくことになります(重症でなければ数時間待たされます)。外来のない日には、スタッフは自分の研究などに自由に時間を使えます。朝一番に病院に来なくたってかまいませんし、外のオフィスでプライベートに患者さんを診療してもかまいません(自分の意志でするのだから、日本の大学のバイトとは違う)。

レジデント・フェローが病棟担当でない場合は、彼らはそれぞれのスケジュールで小児神経の各分野(てんかん、神経筋疾患、脱髄疾患、異常運動、脳卒中、睡眠障害など)や関連領域(発達障害、成人神経科、他科)、研究のローテーションを行います。それぞれの専門外来に参加したりしますが、病棟は完全にフリーですし、オンコールもありません。ローテーションは1か月単位ですが、1つの領域を2-3か月勉強することもでき、とても効率よく勉強できると思います。参考文献を読む時間も十分にありますし、週に大きな講演会が数回はありますので、それにも参加できます。

こんな感じで、こちらの神経科レジデント・フェローは、勉強をできる時間が十分に与えられていると思います。そして、午後5時にはみんな帰宅してしまいます。なんともうらやましい環境です。この時間的余裕は明らかにマンパワーの違いに起因していると思います。

ちなみに、病棟の看護師の数もだいぶ違うと思います。また、MRIなどへの患者さんの搬送は、搬送チームを呼べば終わりです。担当医や看護師がいち いち連れて行かなければならない日本とは違うなぁと思います。採血も静脈ラインの留置も採血チーム、静脈ラインアクセスチームを呼ぶだけです。ただ、自分 でする機会がないと、手技が下手になりそうで怖いですが。

おかげで、自分のする仕事は日々の診察、カルテ書き、治療方針の立案、処方や検査のオーダー、脳波判読という、医師としての仕事だけになっています。あとは、論文を読んだり、研究をしたり、講演会に参加したりです。各人がそれぞれの専門性を最大限に生かせる仕事をする。これを支えているのがマンパワーなのだと思います。

日本であくせくと働いてそれなりに経験も積みましたが、もっと論文なども読んだり講演なども聴いたりしなければ成長できないと思っています。そういう時間が、特にカナダに来る前の数年間は取れず残念でしたから、あと1年間のフェローシップでもっと色々と見聞きしたいと思っています。

あくまでも私見ですが、大学というものは、専門を極めるためのアカデミックな知的サロンであるべき場所だと思います。専門医がいて、いろいろ見聞きして、論文などを読んで勉強する。そういうことに時間がとれなければ魅力はないと思います。昨今、人手不足のため日本の大学病院が医師引き上げを行わざるを得なくなっており、独立行政法人化のため利潤を追求しなければならなくなってきましたから、知的サロンとしての魅力は低下してきていると思われます。

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