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2007/06/16

ケトン食療法と迷走神経刺激 (Ketogenic diet and vagal nerve stimulation)

カナダでは、てんかんの薬物治療以外に、ケトン食療法迷走神経刺激(VNS)が積極的に行われています。

外来にも、ケトン食療法、VNSの専門外来があり、僕も何回か見学しました。

ケトン食療法とは、高脂肪、低炭水化物の食事療法により、てんかん発作を減少させようというものです。人間の体は、炭水化物が不足すると、脂肪を燃やしてエネルギーを得ようとします。その過程でケトン体という物質ができるわけです。一般的には飢餓状態でケトンが増加するわけですが、食餌療法で人為的にその状態を起こすわけです。これがてんかん発作に効くメカニズムは、まだよく分かっていないようです。

食餌療法は、調理をする親御さんに負担がかかります。炭水化物を多くとらせるとケトン体が出来なくなりますので、主食はもちろんのこと、間食に至るまできちんとした管理が必要です。こちらは、ケトン食専門のチームがあり、専任の栄養士を初めとする強力なスタッフがそろっています。医師は、患者の全身状態の管理にもちろん参加しますが、食事の細かい指導は、栄養士が専ら行います。週に1回、チームのカンファレンスがありますが、僕の知らない専門用語が飛び交っています(たぶん、英語の聞き取り力の問題だけではないと思う)。

日本でもケトン食療法は行われていますが、決してポピュラーな方法ではありません。よく、「高脂肪の食事は日本人の食生活には合わない」と言われていましたが、お隣の韓国ではわりと積極的に行われているという噂も聞き、どうだかなぁと思っています。理由はともあれ、ケトン食に対する医療者側の熱意が不十分であれば、患者さんには伝わりません。こちらの専門チームの熱意には見習うべきものがありますし、僕も色々反省しなければいけないところがあります。

もう1つの治療法は、迷走神経刺激(VNS)です。これは、体内にペースメーカーのような機器を埋め込んで、迷走神経という神経に定期的に刺激を与える(例えば、30秒刺激して5分休憩を繰り返すなど)ことにより、てんかん発作の減少を狙うものです。刺激は定期的に与えられるわけですが、長めの発作が起こったときなどに、マグネットをVNS装置に当てることにより、VNS装置を活性化(activation)させ、強制的に刺激を開始させることもできます。この際の刺激強度は、通常の強度とは別に設定でき、多少強めに設定することが多いようです。これで発作を止めたり、長さを短くしたりできる効果がある程度あるようです。

機器の設定は、設定機器をVNS装置にかざしてPDAで行うことができ、非常に簡便です。

日本でもかつてVNS装置のトライアルが行われましたが、結局認可されませんでした。詳しい経緯は知りませんが、海外で効果があるとされている治療法が使えないのは、非常に残念なことです。

これらの治療法は、通常の抗てんかん薬が無効な難治てんかんの方で、なおかつ、てんかん発作の焦点が外科的に切除できない方たちで考慮されるものです。日本では、カナダに比べて使用できる薬剤も限られている(新世代とされる薬剤のうち、トピラメート、ラモトリジン、オキシカルマゼピン、レベティラセタム、ヴィガバトリンは、日本では未認可)こともあり、食事を作る手間、VNS装置を埋め込む手術などの負担がありますが、薬物療法の他に色々なオプションは提供されてしかるべきと思うのですが、いかがでしょうか。

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コメント

先生、初めまして。ブログ拝見しました。
私の息子3歳は難治性てんかんで、薬物治療をして2年以上ですが、現在も睡眠時の発作が毎日有り、発達にも重度の遅れが有ります。
薬は常に3種類は飲んでいるのですが…
静岡てんかんセンターに検査入院もしましたが、原因は特定出来ませんでした。
難治性てんかんで検索して先生のブログを拝見したのですが、迷走神経刺激療法は、日本で受けることは出来るのでしょうか?
息子が良くなる可能性があるのなら、カナダに連れて行っても良いと思いますが。
発達の退行が進む前になんとかしたいのです。
一般人が突然コメントして良いのか分からなかったのですが、もし返答頂けたらとても有り難いです。宜しくお願いします。

投稿: こうちゃんママ | 2012/07/24 13:54

こうちゃんママさん、こんにちは。発達の問題はとても大切ですね。

発作が難治で、部分発作であっても焦点の位置が絞れない、または全般発作の場合には、脳梁離断術、ケトン食療法、迷走神経刺激療法が選択肢として挙げられます。

どれがよいかは発作の形などにもよりますので、担当の先生とよく相談してください。

迷走神経刺激療法は日本でも受けることができますよ。

投稿: あきちゃん | 2012/07/24 15:37

早速のご返答有り難うございます!!

息子は部分てんかんで、手術をするケースではないと言われています。
今の主治医(大学病院)に、迷走神経刺激療法やケトン食の事を相談してみますね。

かなり不安定ながらも歩いていた息子が、歩かなくなって数か月…また歩けるようになる望みを持ち続けたいです。

どうもありがとうございました。これからも時々ブログを拝見させて頂きます。

投稿: こうちゃんママ | 2012/07/24 18:12

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