2016/12/04

抗てんかん薬の止め時(続き)

抗てんかん薬による治療を始めて発作が無事に止まったら、薬を止められるかどうか考える、ということは前回に書きました。

一般的には、2年間発作が止まったら、薬を止められるかどうか考えます。施設によっては、3年間という所もあります。1年の違いは長いですが、発作抑制期間が長いほど再発率が低い、という話もあったりするため、どちらがよいかは一概に言えません。

薬を止める前には脳波をとります。脳波でてんかん発射が残っている方が、残っていないよりも、再発率が高いと考えられています。てんかん原性(≒てんかん発射)が残っていれば、火種は残っているわけですから。

脳波でてんかん発射がない場合、1年ほどかけて薬をゆっくり減らして中止します。脳波でてんかん発射が残っている場合は、患者さんとよく相談することになります。

てんかん発射が残っていても、いわゆる良性波形(ローランド棘波等)であれば、発作原性はそんなに高くありません。もともと良性波形を示すてんかんでは、発作回数が少ないのです。このような場合は、てんかん発射が残っていても、薬を止めていきます。だいたいはうまくいきます。

良性波形でない場合は、薬をすぐには減らさない場合があります。しかし、小児患者の場合、ずっと薬を続けようと即決するわけではありません。数年見て異常の程度があまり変わらない場合には、試しに薬を減らしてみる場合はあります。発作が再発するようなら、薬を再度増やさざるを得ません。年齢が上がってくるにつれて薬を止めるのは難しくなっていき、成人になってしまうとかなり難しくなります。

一方、成人の場合、てんかん発射が消えていても、薬を減らすと発作が再発する場合があります。成人の脳波では、てんかんが治癒していなくても異常が出ない場合がわりとあり(感度が低い)、注意を要します。成人の場合、お仕事や運転免許のこともあり、積極的に薬を減らしていくのはなかなか難しいです。

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2016/11/28

抗てんかん薬の止め時

てんかんの治療のため、抗てんかん薬の処方を始めて発作が無事止まったなら、薬の止め時をどこかで考える必要があります。

えっ、薬を止められるの?

こどもの患者さんでは、成長とともにてんかん原性が治まり、薬を止められる可能性があります。つまり、完全治癒です。

以前にも書きましたが、抗てんかん薬は発作を抑えるだけの薬。てんかんを治す薬ではありません。

お薬で発作を抑え続けることで、発作を起こすような異常な回路が患者さん自身の自然治癒力で消えてくるのを待つのが、抗てんかん薬による治療の本質です。だから、時間がかかります。

お薬を止めて発作が再発したとしたら、その時点でまだ治っていなかったからです。

自然治癒力は、こどもの方が大人よりも高い。だから、こどものてんかんは大人よりも治りやすいのです。一方、発作がなかなか治まらずに成人に持ち越してしまった方や、成人で発病した方の場合、小児期発症よりも完全治癒(=薬を止められる)の可能性は低いです。もちろん、ゼロではありませんが。

一般的には、発作が2年間止まった時点で、薬を止められるかどうか検討します

続きは、また後日。

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2016/11/27

ふつうでないてんかん

「ふつうの」てんかんでの治療は、発作を止めさえすればよい、と前回書きました。

「ふつうでない」てんかんは、何でしょうか?

てんかん性脳症と呼ばれるものです。

脳波異常が強いため、発作だけでなく、てんかん発射そのものが脳の機能に進行性に悪影響を与える、という概念です。

てんかん性脳症では、発達がどんどん遅れるのですが、脳波の激しいてんかん発射が健全な発達に悪さをすると考えられています。なので、脳波を治療しなければダメだということです。

でも、抗てんかん薬って、てんかん発射は抑えないのでは?

脳波異常を完全に抑えるのは難しいですが、頻度や拡がりの程度を減らすことはできます。全体に拡がっているのを片方だけに留めるといった具合に。

なので、てんかん性脳症の場合は、脳波のてんかん発射を減らすことを目指して抗てんかん薬を使います。場合によっては、ステロイド等、強力な治療をする場合もあるくらいです。

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2016/11/26

抗てんかん薬の始め時

抗てんかん薬は発作原性を抑える。てんかん原性は抑えない。

抗てんかん薬は発作を治療するための薬。脳波を治療するための薬ではない。

といったことを前回書きました。

言い訳をしておきますが、分かりやすくするために、かなり白黒はっきりつけています。現実の世界は、こんなに単純ではないのですが...

てんかんの治療に関して、この原則をどう適用するのでしょうか?

前回も書きましたが、脳波でてんかん発射があっても、発作がなければ治療は不要です。治療の対象が存在しないわけですから。そもそも、てんかんですらないのですが...

いやいや、てんかん発射だけあっても、薬を飲んでおけば将来起こり得る発作の予防効果はあるんじゃないの? という意見がありそうです。

それは否定しません。ですが、いくつかの理由で私は反対します。

1. そもそも予防できるのか?

てんかんの診断がついた方でも、合うと思って処方した最初の薬が効くのは半分強です。裏を返せば、半分弱はハズレです。発作がまだ起こっていない方ではハズレが半分から2割くらいに下がりますとは、とても言えません。頑張って飲んでもハズレの可能性はそこそこある。そして、ハズレであれば頑張ったのは無駄だったということになります。

2. 薬を飲むことのデメリット

薬は100%安全ではありません。色々な副作用があります。運悪く重篤な副作用が出る可能性があります。毎日飲む必要がありますし、お金もかかる。よく分からないなら薬を処方しておくという考えの方は、このデメリットを軽視し過ぎています。

3. 止める時が分からない。

発作はもともとない。でも、てんかん発射がある。薬を始めて、てんかん発射が消えなかったら、一生薬を飲むのでしょうか? 治療のターゲットを適切に設定せずに薬を始めてしまうと、止め時が分からなくなってしまいます。

次に、誘因のない発作を繰り返し、てんかんと診断がついた場合です。

この場合、発作予防のメリットが充分あるなら、抗てんかん薬を開始します。

発作に効き脳波に効かない薬なのですから、発作が止まれば治療目的を達したことになります。てんかん発射を薬で消し去る必要はありません。これが原則です。

治る運命のてんかんであれば、お薬で発作が長期間起きないようにしていれば、脳波異常は徐々に治まってくることが多いです。これをじっくり待つということです。

「ふつうの」てんかんは、これで十分です。

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2016/11/18

抗てんかん薬を始める時

抗てんかん薬による治療を始めるタイミングはどうしたらよいのでしょうか?

前回の記事で書きましたように、抗てんかん薬は発作原性を抑える対症療法の薬です。

一般的に、脳波のてんかん発射はてんかん原性の指標とされています。これも色々と所説あり、てんかん発射であっても、てんかん原性がそう強くないもの(green spikes)、てんかん原性が強い者(red spikes)があります。

でも、てんかん発射があるからといって、発作が起こるかどうかは分かりません。発作のない健常人でも数%にてんかん発射がみられるからです。てんかん発射で発作原性を判断するのは今のところ難しいと言えるでしょう。

今のところ、発作原性を判断する確実な方法は、発作が実際に起こったということです。当たり前といえば、当たり前ですが、事前に予測できないから世の中難しい。だから、みんな、そうできたらと研究しているのですね。

要約しますと、

抗てんかん薬は発作原性を抑える。てんかん原性は抑えない。

てんかん原性は、脳波のてんかん発射で(ある程度)分かる。

発作原性は、発作が実際に起こることで分かる。

ここから、

抗てんかん薬は、発作が起こり始めたら使う。脳波にてんかん発射がみられたとしても、発作がなければ使わない。

という話になるのは、自然なことではないでしょうか?

一言で言えば、

抗てんかん薬は発作を治療するために使う。脳波を治療するために使うのではない。

これが、原則になります。

この原則をどのようにてんかんに適用するかは、次回に書きます。

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2016/11/17

てんかん原性と発作原性

てんかんは、てんかん発作を繰り返し起こす慢性の脳疾患です。

この慢性の脳疾患という言葉が肝で、急性疾患ではない、ということです。

気管支喘息の方が、ゼーゼー、ゴホゴホを喘息の発作を繰り返し起こします。これが慢性疾患。気管支炎は急性疾患なので、ゴホゴホしていても、その時限りです。

てんかん原性発作原性という言葉があります。

日本語はちょっとしっくりしません。英語だと、epileptogenesisictogenesisです。

てんかん原性とは、健康な脳が、てんかん発作を繰り返し起こしやすくなるように変わっていく病的な過程です。発作を起こしやすくなるような異常な回路が徐々に脳に出来上がってくる、というイメージです。

発作原性とは、発作をしていない状態(発作間欠時)から発作をしている状態(発作時)にスイッチが切り替わることです。てんかん患者さんは、ふだんは発作はしておらず、ふつうの方です。ところが、突然発作が起こる。これは、発作原性によってスイッチが切り替わるからです。

低血糖で発作が起こりますが、これは低血糖による発作原性で発作が起こるのです。でも、てんかん原性はここにはないので、低血糖という誘因を取り除けば、発作を繰り返すことはありません。脳自体は病気ではないのです。これが、急性症候性発作です。

てんかんが治るということは、どういうことか?

これは、てんかん原性が治まること、言い換えれば、脳内の発作を起こすような異常な回路が消えることを意味します。

前回の話に戻りますが、現在市販されている抗てんかん薬で、てんかん原性を抑える作用が証明されているものはありません。なので、抗てんかん薬では、てんかんは治らないのです。

抗てんかん薬は発作原性に対して効きます。つまり、発作にスイッチが切り替わらないようにするためだけの薬、というのが抗てんかん薬の正体です。抗発作薬と呼ぶべきだ、対症療法の薬だという意見があるのは、そのためです。

では、何故抗てんかん薬を飲んで治療するのかといいますと、

てんかん発作が日常生活の質を損なうから。

てんかん発作のない状態を維持することで、自己治癒力でてんかん原性が徐々に下がることが期待できるから

です。

つまり、抗てんかん薬で治療するということは、発作が起きないようにして、患者さんが自己治癒力を最大限に発揮できるようにしましょう、ということなのです。

患者さんに話をするときは、「お薬で2-3年発作を押さえて、脳が発作の起こし方を忘れてくれるのを待ちましょう」というような言い方で説明するようにしています。

抗てんかん薬が本質的に対症療法の薬だということを理解すれば、てんかん診療上の疑問が色々と解決できます。これについては、また後日。

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2016/11/16

抗てんかん薬という名前のウソ

抗てんかん薬は、我々てんかん専門医が最も処方する種類の薬です。

ですが、「抗てんかん薬」とう名前には少しが入っています。嘘というとちょっと言い過ぎかも知れませんが、誇大広告的なところがあります。

抗てんかん薬で、てんかんは治りません。

なんか、大きな誤解を招いてしまいそうな表現ですね... 

補足しますと、てんかんが「治る」とは、薬を飲まなくても発作が再発しない。つまり、「完全治癒」の意味です。

もう一言いいますと、

てんかんは、自己治癒力で治る。

どんどん怪しげなサイトのような響きになってきましたね...

自己治癒力を高めて、薬のない生活! と言っているわけでは全くありません。

てんかんの治療に薬は必要だが、薬の力でてんかんが治るのではない。

というのが、私の言いたいことです。

もう少し詳しい話は、後日に書きます。

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2016/11/13

5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-MTHF)はMTHFR欠損症の葉酸補充に有効か

メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)欠損症の方で、5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-MTHF)の補充により、髄液中5-MTHFが上昇したという症例報告が出版されました。

JIMD Rep 2016; 29:103-107.

葉酸とフォリン酸(商品名:ロイコボリン等)では髄液中5-MTHFが上昇しなかったが、5-MTHFでは上昇したとのことです。

理屈を考えれば、そうなるはずなのですが、実際そうなったという報告は大切です。

葉酸代謝の回路図は以下の通り。

20150809_2

葉酸もフォリン酸も5-MTHFになるためにはMTHFRが必要なのですから、MTHFR欠損症で効かないのは、ある意味当たり前。もちろん、酵素活性がある程度残っていれば話は別ですが、流れはきっと悪いでしょう。

MTHFR欠損症では、ベタインが有効とされています。5-MTHFが欠乏すると、ホモシステインからメチオニンが作れなくなるのですが、ベタインを使うと別の酵素を使うことができるわけです。

しかし、ベタイン自身は脳内に入れません。血液脳関門を簡単に通れないからです。おそらくはベタインの作用で血液中に増えたメチオニン等が血液脳関門を通って入り、働いてくれているのだろうと考えられています。

一方、5-MTHFは葉酸受容体αというトランスポータがありますので、入ることができる。それが、今回の報告につながったということになります。

MTHFR欠損症の治療としては、ベタイン、葉酸やビタミンB12の補充を行う、と成書に記載されていますが、今後は葉酸は5-MTHFにとって代わられる可能性があります。

問題点としては、5-MTHFは海外でサプリしか販売されていないことです。医薬品ではないし、日本ではサプリとしても売っていない。

安定性としては、葉酸 > フォリン酸 > 5-MTHFですが、医薬品品質の5-MTHF製剤が開発されれば、葉酸、フォリン酸に置き換わるだけのインパクトがあると思います。

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2016/11/12

脳波で何が分かるのか? その限界

脳波検査は、50年以上の歴史があるとても大切な検査です。

てんかんの診断・除外に最も有益な補助検査であるというのは有名です。てんかん診療において、脳波以上に役立つ検査はないでしょう。

でも、脳波が答えてくれないことはたくさんあります。

仮に脳波でてんかん発射があったとして、例えば、

1. その方はてんかんなのか?

2. てんかんでないとすれば、将来的にてんかんになるのか?

3. 次のてんかん発作はいつ起こるのか?

4. 薬を続けるべきなのか、それとも止めてもよいのか?

といった疑問に脳波は答えてくれません。

1.については驚いた方もおられるかも知れません。

てんかんは、脳波で診断するんでしょ? という声が聞こえてきそうです。

脳波ばかり信じていたら落とし穴にはまりますよ、と僕は答えたい。

てんかん診療で脳波を過信すると、過剰診断・見逃しの原因になります。見るべきは患者さん、聞くべきは発作の病歴。これが第一で、脳波は二の次です。検査に患者さんを合わせてはいけません。患者さんのお話に脳波の結果が合わないのなら、立ち止まって考えるべきなのです。

脳波でてんかん発射が出たからてんかん、脳波でてんかん発射が出たから抗てんかん薬内服、という話にはなりません。

検査には限界がある。これをよく知ったうえで充分活用するのが専門医です。

もちろん、脳波についての研究がずっと進んで、上の疑問への答えが出てくるようなら話は変わってきますので、念のため。

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2016/10/29

先天代謝異常学会

日本先天代謝異常学会総会に参加してきました。

この学会に入会したのは、2-3年前でしょうか。かなりの新参者です。

小児神経の世界に入り、てんかんと脳波をメインにやってきて、最近は代謝(の端っこ)。こんな流れです。

最近、脳波をやっていないなぁ。臨床神経生理学会が同時期開催だったのですが、こっちの学会を優先しました。

この学会、今回が第58回でした。なんと、日本小児神経学会と同い年で、てんかん学会よりも回数が多い。歴史がある学会なのだと、改めて感じました。

代謝疾患の治療といえば、酵素補充療法遺伝子治療の話がホットであります。酵素補充では脳内に酵素が届かないため、これをどう克服するかが課題のようで、脳室内注入の治験も行われています。

演題では、わりと基礎的な研究のものも目につきます。ターゲットとなる疾患の性質上、このような研究は必須ですから。なので、探求意欲、知的好奇心を非常にそそります。

自分は、最近は代謝といっても、てんかんをベースにそれに関係している代謝異常に興味があるわけで、この学会のように、体の中で起こっていることをサイエンスとして考えていかなければ、先には進めないなと感じています。

とても刺激になる学会でした。

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