2020/02/22

8年越しの論文

8年越しの... という映画がありましたが、ここでは論文の話です。

トロント小児病院への留学を終えたのは、2011年6月末でした。

この時点で、2つほどやり残した研究がありました。

1つは、てんかん性spasmsの速波と徐波の関係性についての研究で、数年経って2015年に論文にすることができました。それなりの期間がかかってしまいましたが、臨床脳波では有名な英文雑誌に掲載され、頑張った甲斐がありました。

もう1つは、持続脳波モニタリング中の発作の自動検出に関する研究でした。トロント小児病院で使われていた発作検知ソフトを用い、脳波の専門家がaEEGやCDSAによるトレンド表示を使って読んだ結果と比べてどうか? 人 vs. コンピュータでどうか? というお話でした。

私がいた時、3つのソフトを使って一応の結果を出しました。論文を書き始めましたが、私の英語力と日本での業務の忙しさ、指導してくれていたスタッフの諸般の事情とで、数年以上にわたり全く進まない状況が続きました。アメリカてんかん学会でそのスタッフに会ったりもして、「なかなか進まないね~」という話にもなっており、自分としてはほとんどあきらめていました。今更論文にしても、もう古い内容でしょうし...

ところが、2-3年前にそのスタッフより連絡が来て、「今来ている医学生に研究を続けてもらう。新しいソフトも出たので試してみる。データをまとめて論文を書いてくれたら、first authorになってくれていい」とのことでした。

びっくりするようなありがたい話ですが、私もかなり忙しかったので、「私には余裕がないので、私が出したデータは使ってもらってかまわない。その学生さんが原稿を書いたら、first authorにしてあげてほしい。私も助言はする」と返事しました。

そして、クリスマスイブに論文がオンライン掲載されました。救急医学系の一流雑誌で、私も共著者にしていただきました。

内容はもちろん知っていますが、発作検知ソフトがそこそこ実用になるという結果になっており(自分が使った3番目のソフトが非常に出来がよかった)、私には到底書けないような素晴らしい文章で書いてあります。

とても勉強になったのは、私はもうほとんどあきらめていたのですが、そのスタッフはそれでも何とか形にしようと頑張ってくれたことでした。じっくり取り組むことの大切さを痛感した出来事でした。

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2020/02/10

全国てんかんセンター協議会

全国てんかんセンター協議会(JEPICA)へ参加してきました。

JEPICAとは、てんかん診療にかかわる多職種の学会です。

てんかんの患者さんは多くの問題をかかえておりますので、チーム医療が必須です。

いつもながら、とても熱気のある会議だなと思います。他施設の取り組みが色々と発表されるので、とてもためになります。自分たちの弱みもよく分かります...

この会議の終了後、てんかん診療拠点病院の会議があり、てんかんコーディネーターを今後どのようにして育成していくかの話し合いがありました。

いや、そもそも、てんかんコーディネーターとは何なのか? がきっちり明らかにされていないので、なかなか前に話が進みません。

当院では医療ソーシャルワーカーと小児専門看護師が担当していますが、「てんかん診療を円滑に行う(院内および院外)」という考え方はたぶん一致しますが、それぞれ独自の仕事の領分があるわけです。他の施設でも、精神保健福祉士や医師が担当しているところがあり、業務内容は千差万別です。

てんかん診療拠点の事業では、県内でのてんかん診療連携を円滑に行うことが重要項目でありますので、こういった連携にも何らかの役割を果たしていただくことになるのかなと考えております。

てんかんの診療機関でもそれぞれ果たすべき役割があり、てんかんセンターを名乗る機関で全てやろうとするとパンクは必定です。患者さんに不安を与えないように配慮しつつ、医療機関での分業が必要と考えています。そのため、県内全体の診療レベルの底上げを図ろうとしているところです。

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2020/01/28

てんかんと頭痛、発達障害

てんかんと頭痛や発達障害(自閉スペクトラム症[ASD]、注意欠如・多動症[ADHD]など)は、時折合併します。

ですが、頭痛や発達障害の方で脳波検査をしたら、てんかん発射が出ていたので、抗てんかん薬を使った、頭痛や行動面が改善した、というお話を聞くことがあります。学会でもそのような演題を目にすることがあります。だから脳波検査は有用である、という結論になっています。

これは果たして本当なのでしょうか?

てんかん発射が頭痛や行動面の問題の原因だったので抗てんかん薬が効いた、という論理であれば、誤りだと私は思います。

これを証明するには、てんかん発射のない頭痛や発達障害の方では抗てんかん薬が効かない(または、てんかん発射のある方ほどは効かない)ことを示さねばなりません。つまり、てんかん発射が存在することが、抗てんかん薬が効果を発揮するための条件になっていることを示す、ということです。

ただし、てんかん性脳症は例外です。定義上、激烈なてんかん発射が認知・行動面へ悪影響を及ぼす病態になっていますので、これについては今回の議論から除きます。

私の印象としては、抗てんかん薬はてんかん発射を抑える作用(これにも実は異論があり、てんかん発射を抑えない抗てんかん薬もあります)とは別のメカニズムで頭痛や行動面の問題に作用しているのではないかと思います。

ただ、この意見は、てんかん発射の存在が抗てんかん薬の有効性を示唆するという研究報告を私がまだ見つけられていないことを基に書いておりますので、そのような研究がもし既になされているのなら(お気づきの方は教えてください)、再検討を要するとは思っています。

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2020/01/20

結果単剤の問題

他の自治体・病院では話は聞いていたのですが、我々の職場でも結果単剤の抗てんかん薬が保険で査定されるようになりました。

結果単剤とは、併用療法(従来の薬が効かない場合に上乗せして使用)でしか承認されていない抗てんかん薬がとても効いた患者さんで、他の薬が不要と思われたためにこれらを中止し、最後に加えたお薬(併用療法のみ承認されているもの)のみになった状態です。

本来ならば、余計なお薬を止めることができたので患者さんにとっては(我々医師にとっても)喜ぶべきことなのですが、保険診療では認められないということになるのです。

保険診療では、患者さんの自己負担(一般には3割)以外は国から病院へ料金が支払われるわけですが、これが認められないとなりますと、病院が損をすることになります。

病院も経営がありますので、保険診療で認められるように対策せねばなりません。

よくある方法は、結果単剤にできそうであっても、切ろうと思っていた最後のお薬を微量のみ残す、といった手です。

使うお薬の数を減らすことができれば医療費削減にもつながるはずなのに、カチカチの保険制度のために減らせないのです。

以前は結果単剤は言い訳(症状詳記)を提出すれば目をつむってもらっていました。これからは症状詳記を出しても有無を言わせず認められないことになったのですが、この目的は何なのでしょうか?

おそらくは保険診療外の行為を規制することにより医療費を節約、医療の安全性を担保したいということになるのでしょうが、上に述べたように、医師としては不要と思われる薬を医療費節約、副作用軽減の観点から中止したいと考えているのに、それができないというおかしな事態になっています。

お役所ってそんなものですよね...

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2020/01/06

スパイスカレーのコツ

2020年になりました。ミレニアムになってから、もう20年。早いもんだ...

昨年末にカレーを作る機会がありまして、目からウロコの出来事が。

トロントにいたとき、インディアタウンでスパイスをしこたま買ってきて(一袋がでかい!)、インド風カレーを作っていました。

でもね、なかなか満足いく味にならなかったんです。そこそこはおいしかったんですけどね。

特に足らないのが大人の味わいといいますか、コクとビターな感じ。これが足らない。

キーマカレー(ドライカレーのタイプ)を作った時にも感じました。コクとビター感。そして、ひき肉の香ばしさが足らない。

最近、東京カリ~番長のウェブサイトや本を読んで気づきました。足らないのは最初の炒めの工程でした。圧倒的に足らなかった...

焦げるのをおそれず、全体が焦げ茶色になるくらいまで玉ねぎを炒めるんですね。飴色玉ねぎと言いますが、もっと濃い色です。ここまで炒めると、とても香ばしい香りがしてきます。

ひき肉も、表面に焦げ目がつくくらいの焼き付けをするとよかったです。

これらをしっかりするだけで、カレーの味が劇的に変わりました! もう別物というくらいです。

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2019/12/23

5年の月日

ある代謝物の測定系を作っていますが、ようやくほぼ納得いくレベルになりました。

記録を眺めると、実験を始めたのが2015年1月。ほぼ5年経っています。

この間、がんばって実験しては失敗、しばらく休憩してまた実験、失敗、の繰り返しでした。他の仕事もあったので、時間を割くのには気力が必要でした。

2年ほど前にある程度測れるようになったのですが、まだ気になる点が色々ありました。この段階で論文を書いたのですが、却下が続き、正直気分が萎えました。

この1か月ほどで集中して実験し、以前よりも精度がやや高くなり、かつ測定に要する時間が8割に減りました。

発想を少し変えてみたのがよかったと思います。「急がば回れ」みたいな感じ。

がんばってみるものだな、とつくづく感じました。

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2019/12/22

脳波クイズA9

年を越さないうちに回答を書きます(昨年末も同じでしたが)。

レベルとしては、3-4くらいです。前回のクイズを知っている方には簡単だったかも。

A9.

1. 平均耳朶電極を基準とした基準導出。左半球、右半球、正中部の順番です。

2. 前頭正中部(Fz)に約2.5Hzの比較的律動的な徐波がみられる。

3. 大泉門の拍動

4. 正常脳波

解説

モンタージュについては、省略します。

特徴的な波形は、下記の水色の四角のとおり。律動的な徐波がFzに見えます。

20191222

前回の脳波と同じですが、この徐波は心電図と同期しています。縦の黒い破線をじっくり見てください。

さて、Fz(前頭正中部)で拍動するものは何でしょうか? ここで被験者の年齢が鍵になってきます。

生後2か月の乳児なので、大泉門が開いています。Fzの位置はちょうど大泉門のあたりなので、大泉門の拍動(脈波)を拾ってしまうのです。この年齢ならではの所見ですね!

これはアーチファクトですので、異常ではありません。心拍数はちょっと高いですけどね。

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2019/12/07

脳波クイズ Q9

なかなかブログの更新ができません。心の余裕がある時にはチビチビ書き残したいと思います。

久しぶり(1年ぶり!)に脳波クイズです。

Q9. 2か月女児。新生児仮死後(詳細は省略)。フォローアップ目的の脳波(やや眠い時点の記録)です。以下の質問に答えてください。

1. モンタージュは何か? ちなみに、A12は、耳朶平均電極です。

2. 出現している特徴的な波形を表現せよ(何かではなく、波の形態)。

3. この波形の正体は何か?

4. 正常脳波か、異常脳波か?

20191207

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2019/11/29

セピアプテリン還元酵素欠損症の診断システム

セピアプテリン還元酵素欠損症(SRD)という希少疾患があります。日本全体で、数人くらい。

2018/8/30の記事に書きましたが、SRDでは尿中にセピアプテリンが大量に排泄されていることが報告されたため、尿中セピアプテリンの測定システムを作り始めました。

紆余曲折はありましたが(ほとんどは、実験のための十分な時間がないことが問題)、本格稼働にこぎつけました。

SRD患者さんとSRDではない患者さんの尿で比較していますが、セピアプテリンの圧倒的な濃度差があります。測定件数を増やして信頼性のチェックをする予定です。尿で見つかるなら、侵襲が少なくてよいですよね... 痛い検査は医者としてもしたくないです。

なお、髄液中セピアプテリンも測れます。これも既報どおり、上昇しています。

SRDの方は、脳性麻痺と診断されている方の中に紛れ込んでいると思います。もしくは、原因不明の精神運動発達遅滞です。

つくづく、脳性麻痺という診断を安易につけるべきではないと思います。脳性麻痺という名前がつくと、原因検索に関する思考が止まってしまうからです。

治療方法がある疾患ですので、見逃しのないようにしたいです。

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2019/10/25

てんかんの病態に切り込むにはどうするべきか?

先天代謝異常学会に参加しています。

一応、学会員でありますので。

やっていることは、かなりニッチな内容なので、発表カテゴリーは「その他」とか、オムニバス的なカテゴリーとかが常です。

まぁ、ニッチならではの強さはあります。競争が激しくないとか。

思えば、今までいつも人とは違うことをしてきたなぁ...

話題を学会に戻します。

学会の性質上、基礎的な話、研究的な話が多いですし、医師以外の参加もわりとあります。次世代シーケンス、質量分析、酵素活性測定、ドラッグデリバリー等、実験関係が好きな方は、心がときめくかも(私もわりと好き)。希少疾患が多いので、臨床医としてもどのように早期診断して治療するか等、興味はつきません。治験も精力的に進められています。

自分はてんかん専門医でもあるのですが、てんかん学会では、こういった基礎的な話がこんなには多くないと感じています。基礎疾患の診断のための次世代シーケンスは非常に発達し、あまたのてんかん性脳症の遺伝子が見つかりました。ですが、これらからどうしててんかんが起こるのかは、まだあまり分かっていないように思います。異常な回路網ができて発作活動が起こるのは、コンピュータシミュレーションで計算したりなどもできますが、遺伝子などの根っこから、異常な電気活動という表層へ届く道のりがイメージできないのです。

先天性代謝疾患はターゲットが見えやすい、てんかんはターゲットが見えにくい。こういった違いが原因なのかなとも思いますが、てんかんの起こるメカニズムにもう少し踏み込めたら、といつも思っています。そのため、先天代謝異常学会に参加している方々の「見方」を少しでも学べればと思います。

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